メイ首相演説にみるBrexitの将来像

2017/01/19

市川レポート(No.343)メイ首相演説にみるBrexitの将来像

  • メイ首相が示したEU離脱の基本方針は、ハードBrexitとされるWTO型ではなく、英国独自型に。
  • 英国は離脱通知後にEUと協議を開始、合意内容が双方の議会で承認されれば正式に離脱へ。
  • ただ離脱は長い道のりで、交渉難航などの報道のたびに相場がリスクオフで反応する状況は続こう。

メイ首相が示したEU離脱の基本方針は、ハードBrexitとされるWTO型ではなく、英国独自型に

英国のメイ首相は1月17日の演説で、欧州連合(EU)離脱に関する基本方針を示しました。そのなかで離脱交渉に向けた12の優先項目が提示され、英国は移民の制限や司法権の独立を重視し、EU単一市場から完全撤退することが表明されました。しかしながらメイ首相は同時に、離脱後はEUと包括的な自由貿易協定(FTA)の締結を目指すと宣言しました。

また、可能な限り単一市場への自由なアクセスを求め、金融サービスや自動車といった特定産業については、これまでの共通ルールを取り入れる可能性が示唆されました。さらにEU予算については負担金を支払わず、EU域外国との自由貿易も進める意向が示されました。以上より離脱の基本方針は、世界貿易機関(WTO)型(EU単一市場へのアクセスがなく関税が生じる、いわゆるハードBrexit)ではなく、英国独自型と考えられます(図表1)。

英国は離脱通知後にEUと協議を開始、合意内容が双方の議会で承認されれば正式に離脱へ

英国独自型の基本方針は、当然ながら英国にとって望ましい内容になっています。しかしながらEUが離脱する英国にいいとこ取りを容認するとも思えず、離脱交渉は難航が予想されます。離脱に関する今後のスケジュールを大まかに整理したものが図表2です。まずは1月中に、英最高裁がEU離脱通告に関する議会承認の是非を判断する見通しとなっています。

承認が不要なら2017年3月までに離脱が通告され、承認が必要ならば議会承認を経て離脱が通告されます。その後、英国とEUとの離脱交渉が始まりますが、期間は2年と定められています。2017年3月に離脱を通告した場合、2019年3月が期限となりますが、EU加盟国の同意で交渉の延長は可能です。離脱交渉で合意した内容は、英国とEUの双方の議会で審議され、承認となれば英国は正式にEU離脱となります。

ただ離脱は長い道のりで、交渉難航などの報道のたびに相場がリスクオフで反応する状況は続こう

しかしながらスケジュールが順調に進むとは限りません。例えば、英最高裁が離脱通告に議会の承認が必要と判断すれば、2017年3月までの離脱通告は難しくなります。また通告以前に英議会で審議が難航すれば、離脱通告の可否を問うために下院解散、総選挙という展開もあり得ます。この場合は政治的不確実性が高まり、英国経済の見通しを悪化させる恐れがあります。

また英国とEUとの離脱交渉についても、前述の通り難航が予想され、英国が想定している英国独自型の離脱方針が実現するか否かは不透明です。仮に合意に至ったとしても、最終的にはその合意内容について、英国の議会承認とEU全加盟国の議会承認が必要となります。このように英国のEU離脱は長い道のりであり、その間、交渉難航やスケジュール遅延などの報道が出るたびに、相場がリスクオフ(回避)で反応する状況は続くと予想されます。

 

170119図表4170119図表5

 

 

 (2017年1月19日)

市川レポート バックナンバーはこちら

http://www.smam-jp.com/market/ichikawa/index.html

三井住友DSアセットマネジメント株式会社
市川レポート 経済・相場のここに注目   三井住友DSアセットマネジメント株式会社
主要国のマクロ経済や金融市場に関する注目度の高い材料をとりあげて、様々な観点から分析を試みます。
●当資料は、情報提供を目的として、三井住友DSアセットマネジメントが作成したものであり、投資勧誘を目的として作成されたもの又は金融商品取引法に基づく開示書類ではありません。
●当資料に基づいて取られた投資行動の結果については、当社は責任を負いません。
●当資料の内容は作成基準日現在のものであり、将来予告なく変更されることがあります。
●当資料は当社が信頼性が高いと判断した情報等に基づき作成しておりますが、その正確性・完全性を保証するものではありません。
●当資料に市場環境等についてのデータ・分析等が含まれる場合、それらは過去の実績及び将来の予想であり、今後の市場環境等を保証するものではありません。
●当資料にインデックス・統計資料等が記載される場合、それらの知的所有権その他の一切の権利は、その発行者および許諾者に帰属します。
●当資料の内容に関する一切の権利は当社にあります。本資料を投資の目的に使用したり、承認なく複製又は第三者への開示等を行うことを厳に禁じます。
●当資料の内容は、当社が行う投資信託および投資顧問契約における運用指図、投資判断とは異なることがありますので、ご了解下さい。

三井住友DSアセットマネジメント株式会社
金融商品取引業者 関東財務局長(金商)第399号
加入協会:一般社団法人投資信託協会、一般社団法人日本投資顧問業協会、一般社団法人第二種金融商品取引業協会

このページのトップへ