トルコのクーデター未遂事件と「ヘリコプター・マネー」

2016/07/22

先週、世界の主要な株価指数の中で上昇率がトップだった日経平均ですが、今週も続伸してのスタートとなりました。20日(水)の取引では小反落し、連騰記録は6日間でストップしたものの、堅調に推移していると言えます。先週末に発生したトルコのクーデターも未遂に終わり、結果として週明けのマーケットへの影響はほとんどありませんでした。話のつながりとしては少し強引かもしれませんが、軍部の一部将校が起こしたクーデター未遂といえば、国内では「2・26事件」(1936年)が思い起こされます。

この事件で銃弾に倒れた一人が当時の大蔵大臣である高橋是清です。昭和恐慌後の景気立て直しと、満州事変の戦費調達という二つの課題が課される中で1931年に大蔵大臣に就任した彼は、いわゆる「高橋財政」で有名です。高橋財政を簡単に言ってしまうと、その財源を「日銀による国債直接引き受け」の実施によって賄いました。もちろん、この他にも管理通貨制度の導入など、色々やりましたが、これらが効を奏し、日本経済は世界恐慌からいち早く立ち直らせることに成功しました。一説では3年で10%のデフレから3%のインフレに引き上げたと言われています。

最近、話題のキーワードになっている「ヘリコプター・マネー(ヘリマネ)」ですが、その手法の一つが高橋財政下で行われた中央銀行による国債の直接引き受けです。リフレ派の中には高橋財政をヘリマネの成功例や手本とする見方もあるようです。ただし、現在は先進国の多くで、中央銀行による国債の直接引き受けは原則として禁止されています。過去の成功例とされる事象があるにもかかわらず、禁止されているのはデメリットの懸念が強いからです。

中央銀行が国債を直接引き受けることで、国債を発行する政府は簡単に資金を調達することが可能になります。ただし、資金の確保が簡単であるがゆえに、国債増発が止まらなくなることや、通貨に対する信認が低下してしまうこと、インフレが急進行してしまうなどの恐れがあります。

事実、高橋財政で立ち直った日本経済ですが、その後はやはりインフレの兆候が芽生え、その進行を警戒した高橋是清は緊縮財政への転換を試みようとします。1936年度予算では、国債発行の削減や軍事費の抑制方針を打ち出しますが、多額の戦費を必要とし、容易な資金調達に味をしめた軍部から強い反発を招きます。それがきっかけとなり、高橋是清が2・26事件でのターゲットになったとも言われています。高橋が暗殺された以降の日本財政は規律を失い、10%を超えるインフレを招いてしまいます。

来週(29日)は日銀の金融政策決定会合の結果が公表される予定ですが、ヘリマネ政策は「出口が難しい」面が強く、導入するのであれば、サプライズではなく、運用方針などをきちんと議論した上でなければ、デメリットへの警戒の方が強くなる可能性があります。もっとも、1930年代とは情勢が異なりますが、足元では相場を支える材料だったものが売りのきっかけにもなり得るため、注意が必要と言えそうです。

 

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