揺れるアジアの未来

2018/07/09

・6月に、日経主催の国際交流会議「アジアの未来」が催された。アジア各国から政治家、要人が参加したが、まずは印象に残った発言をとりあげ、その後、今後の方向について考えてみたい。

・平和と安定を確保し、経済統合で協力を続けられるか(テオ シンガポール副首相)。これが最大のテーマである。渦中の米朝首脳会議で当面のリスクは低減したが、ツバメが1羽飛んできたからといって、春が訪れたわけではない(金 韓国副首相)。 このフレーズも響いた。

・北朝鮮の非核化とは何か。北朝鮮は3つの保証を求めている。①国として認め外交関係を築く政治的保証、②戦術的核兵器を使わないという軍事的保証、③経済制裁の緩和から解除に向かう経済的保証、である。IMFの参加も1つの条件である(文 韓国大統領補佐官)。これらを与えることができるか。

・アジアには3つのリスクがある。①保護主義と航行安全への脅威、②インダストリー4.0の労働者への影響、③気候変動への対応である(チュオン ベトナム副首相)。大国の保護主義、東シナ海や南シナ海の火種、単純労働の機会の喪失、インフラづくりの必要性などに対して、手を打っていく必要がある。

・日本が進める自由で開かれたインド太平洋戦略が、平和、安定、協力に貢献することを願っている(トルエン ラオス首相)。地域の連結性を推進する枠組みとして、中国の一帯一路、日本の自由で開かれたインド太平洋戦略に加え、タイ周辺国で作るACMECS(メコン流域5カ国の経済協力会議)もある(ウッタマ タイ工業相)。

・米国はTPPとパリ協定から離脱し、貿易戦争を始めている。世界の長年の取り組みを反故にする働きだ。米国の政策が世界を不安定にしている。インドネシアはCPTPP(新TPP、包括的で先進的な環太平洋パートナーシップ協定)に参加する意思をもっている(ユスフ インドネシア副大統領)。

・先進国と対等に競えない新興国には、自らを守る権利がある。マレーシアで車を作っても、日本、韓国、中国には参入できない。公正な競争が可能となるには、ゴルフでいうハンディが必要である。民主主義と自由貿易の実践は、移行期の国々にとって困難を伴う(マハティール マレーシア首相)。これは途上国の言い分として当然であるが、昨今の米国もこれに近いと感じる。

・中国にとって優先順位は、①一帯一路、②RCEP(東アジア地域包括的経済連携:アセアン+中国+インド+日本+韓国+豪+ニュージーランド)、③日中韓FTAにあり、それ以外への関心は低い(李 中国社会科学院院長)。

・世界的に資金はだぶついているが、アジア地域の莫大なインフラ需要にマネーが向いていない。ADB(アジア開発銀行)は地域の貧困をなくすことをテーマにしているが、AIIB(アジアインフラ投資銀行)は、インフラの地域格差を埋めることを任務としている(グロフ ADB副総裁)。

・AIIBはインフラのプロジェクトファイナンスに特化している。ガバナンスも改善しており、中国の議決権比率は25%を超えるが、中国1カ国で何かを決めることはできない(アムスベルク AIIB副総裁)。

・従来型のインフラ(道路、港、電力)も重要であるが、デジタルインフラによるデジタルコネクティビティがより重要になっている(佐藤JETRO理事)。

・こうした論点を少し具体的に見てみよう。米国が自由貿易の旗を降ろしてしまった。米国は大国であるが、もはや世界のリーダーとはいえず、途上国型になり下がるのであろうか。

・トランプ大統領は常に自分が全面に立って、ワンマン型でディールを決めようとする。外交、経済においてもそうしようとする。経済統合は損して得取れという面があるが、自らの利害で納得できない損は認めないので、このままでは貿易戦争は強まろう。

・一方で、中国の存在はますます大きくなっていく。国家体制が違うものの、世界のリーダー的に振る舞いつつ、覇権を強めようとしている。これにはどう対抗するのか。一国では無理で、政治的、経済的な連携をとってグループで折り合いをつけていく必要がある。戦争ではなく、対話で道筋をいかに立てていくかが問われる。

・真の大国の条件は、多様性を受け入れていくインクルージョンと、多様性から生み出されるイノベーションで世界をリードしていくことである。今の米国、中国はどうか。両国の戦いはこれからも続いていこう。

・保護主義やポピュリズムは危うい。しかし、格差や停滞の中で不満が溜まってくると、政治はその方向に流れる。グローバルな競争ではなく、グローバルな協力という枠組みづくりにどう取り組んでいくか。平和と安定の道はこれしかない。自国優先、自国ファーストでは不確実性が高まる。投資環境は悪化するので事態は深刻となろう。

・世界の政治経済モデルは変化している。かつての成長モデルでは通用しない。新しいトレンドはサステナビリティの確保にある。信頼と対話が醸成されれば、途上国の発展はほぼ確実である。それは先進国にとってもプラスの効果を生む。

・どの国も貿易の自由度を広げ、FDI(海外からの直接投資)などをしやすくして、インフラの充実を図ればサステナビリティは高まる。投資を促進するには、予測可能性を高めることである。枠組みがはっきりして、安定してくれれば、先は読み易くなる。そうすると、投資は活発化し、発展の余地が高まってくる。

・そのためには、政治的連携、経済的連携のルール、仕組みについて、関係するすべての国が関わることである。誰かが勝手に決めて、それに従えというのでは、不満が残り、そもそも入りたくないと思ってしまう。始めのルール作りに、関係するすべての国が入っていくことが重要である。自分も参加すれば、何らかのコミットメントを持つことになり、責任も伴ってくる。

・今回、インクルージョン(包摂)という言葉を何度も聴いた。多様な人々、弱い立場の人々、参加国の各々の立場を十分組み込んで政治を行っていこうという姿勢が強く感じられる。米国が後退している一方で、中国は、自国、自給、陸中心から、他国、貿易、海に視野を広げている。そうすると、一国の都合だけでは進まないことも多い。中国も協力ということが少しわかるようになってきたともいえる。

・CPTTPは、米国が抜けた後のTPPの新しいモデルである。CPTPPは11カ国が参加し、これからも加盟国を増やそうとしている。しかし、その内容では、サービスセクターの開放や農業問題など、依然として難しい課題を抱えている。

・アジアの未来は、①コネクティビティの推進、②コラボレーションの拡大、③インクルージョンの広がり、にかかっているという、ウッタマ タイ工業大臣の言葉が印象に残った。

・ADBとAIIBは両立できるのか。この問題設定自体が陳腐のようである。それぞれに目的があり、開発投資案件は山のようにある。お金はいくらあっても足らない。誰がリーダーシップをとるのかという点で、中国がAIIBを設立した。中国はこれからも自らがリーダーシップを発揮するような新しい国際機関を作ろうとするだろう。リーダーを目指す時はそのような行動をとる。

・インフラ、都市化、気候変動(災害)への対応はますます重要になってくる。フィジカルコネクティビティだけでなく、デジタルコネクティビティが一層重要になってくる。大国と小国、大企業と中小企業、企業人と個人という対比の中で、弱者にとってのデジタルエコノミーが大きな意味をもっている。つまり、彼らの成長発展に大きく役立つのである。

・インフラ作りにおいては、バリューチェーン全体をみていく必要がある。公的機関が入ってくると、民間も参加しやすくなる。地勢学的分散がきいてくると、投資はさらにやりやすくなる。ファイナンスがつけられるかというバンカビリティも上がってくる。

・ADBとAIIBは敵対するものではなく、ライバルである一方で、協力も行っている。AIIBには既に57カ国が参加している。多くの参加国は、これが中国の銀行ではないと分かってきた。インドにも、トルコにも投資している。中国にとっては個別の案件ではなく、中国のリーダーシップとしてのクレディビリティを作ろうとしている。

・こうしてみると、いまの経済的安定を壊してまで貿易戦争をやるというのは得策ではない。米国も、自国の不利益が表面化してくれば、強硬姿勢一辺倒というわけにもいかない。中国も自己都合の強硬政策をとっているだけでは、周りの国からの賛同は得られない。

・アジアを取り巻く環境は、大国の力関係の変化を軸に、不安定な要素を強めているが、ここからいかに協調に取り組んでいくか。政治、経済の枠組みが軋む局面では、マーケットに動揺が起きよう。

・それが戻れない不均衡となるのか、揺れながらも一定の均衡水準を保つことができるのか。今のところ後者の可能性が高いとみる。拡大均衡を目指して発展するアジアに、引き続き注目したい。

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