アベノミクスの第3の矢~本命の1つは資本効率の向上

2014/06/23

・経産省の「持続的成長への競争力とインセンティブ~企業と投資家の望ましい関係構築~」プロジェクト(伊藤レポート)の「中間論点整理」が公表された。メンバーとして議論に参加しているが、この報告書を読んで、日ごろから実感している点をいくつか強調したい。

・日本企業の収益性は国際的に見て低い。つまり、海外の企業に比べて相対的に儲かっていない。なぜか。1つの理由は、企業としての差異化が十分できていないからである。自社でもできると考えて、似たようなことを始めてしまい、なかなか手を引かない。同質化しやすいといえよう。もう1つは、価値あるものを適正に売ることが上手くない。本当は価値に見合ってもう少し高くてもよいものを、姿勢として安くしてしまうという習性があるのもかもしれない。

・多くの企業は、収益性の指標として売上高営業利益率を重視し、実際によく使われている。一方で、ROE(自己資本利益率)となると必ずしも定着していない。この20年、投資家からはROEが重要であると指摘されてきたが、企業の経営指標としては十分機能していない。なぜか。ROEを事後的に計算している企業は多い。決算短信にも開示が義務付けられている。中期計画においてもROEを明示している会社はかなりある。しかし、経営の実態において、それを活用しているのかというと、そうでもない。上場企業でありながら、資本市場のことがわかっていない可能性がある。

・会社に対して誰がガバナンスを効かすのか。重要なのは、企業のガバナンスの仕組みである。その中では、複数の独立社外取締役が機能しているかどうかが問われる。同時に、有力な役割を担うのが株主であり、機関投資家である。しかし、機関投資家が本当にものを言う株主かといえば、未だ十分でない。アクティビストのように活動せよ、という意味ではない。自らの利益を追求して、何が何でも無理を通そうと要求するわけでもない。鍵は対話にある。投資家が企業と真の対話をすることによって、企業の競争力が高められるようになれば、こんなにいいことはない。そのような対話が、本当にできるのだろうか。

・企業サイドも、投資家に言われなくてもそんなことは分かっている、あるいは、ビジネスの実態を知らない投資家が無理な目標をすぐに達成しろと要求する、というような姿勢では、真の対話はできない。自社について、会社の方がよくわかっているのは当然であるが、投資家は他の優良企業をいろいろみている。その比較感から、素朴な問いが的を射て、それにどう応えるかで戦略の根本が認識されるということがありうる。そういうことが、1つでもあればしめたものである。緊張と協調の対話が、規律を磨き、競争力を高める。これが本質である。

・では、具体的に何を対話するのか。投資家は企業の価値創造のプロセスを知りたいのである。そのためには、1)商品やサービスに対する価格の決定権は誰が握って、どのように決まっていくのか、2)わが社が世の中にとって不可欠であるという存在感はどこに由来するのか、3)まだ儲かっていない事業、輝きを失いつつある事業を含めて、事業ポートフォーリオをどのように最適化していくのか、4)画期的なイノベーションにどのように取り組んでいるか、5)新しい時代に合った経営革新をいかに実践しているか、などについて議論をしたい。

・まさに、経営の中身そのものである。何も企業の秘密を知りたい、それを教えてほしいということではない。会社の持っている組織能力について理解を深め、投資家として自信を持ちたいのである。こうした長期投資に資する情報提供が会社側から徹底されるのであれば、目先の短期的な情報に惑わされることは減少するので、短期志向のインセンティブは低下していこう。

・企業の経営力やその実行に対する信頼感は、今のところ十分でない。投資家を納得させつつ、彼らの意見を自らの経営に上手く咀嚼し織り込んでいくことが求められる。そのプロセスにおいて、ROEや資本コストを意識した経営を実践する。経営の仕組みの中に、ROEと資本コストをビルトインしてほしいのである。

・実際にはどうするのか。論点とプロセスをはっきりさせるために、少し飛躍してみる。1つ目は、7年後のEPS(1株当たり利益)をイメージして議論しよう。2020年のEPSなどわからない。その通りだが、EPSのありようを想定するには、会社の実態をこれまでよりもつっこんで考える必要が出てくる。

・2つ目は、会社をA、B、C、Dと、自らの考えで、企業レーティングしてみよう。企業の善し悪しをイメージし、軸を定めて、どうしたらCからBへ、BからAに上げられるかを議論してみよう。レーティングの評価軸を定め、その評点を検討する。正しいかどうかではなく、論点を明確にした上で、内容を検討することが重要である。

・3つ目は、1)3年平均のROEが8%以下の会社は、なぜそうなのか、どうしたら8%以上に上げられるかを議論しよう。2)8%を超えている企業は10%以上に上げることを検討しよう。3)10%以上の企業は15%以上に定着させるための経営について構想し、戦略を練っていく。ROE8%以上が日本標準、15%以上が世界標準(グローバルスタンダード)であると認識してほしい。逆に8%以下は、資本コストから見て実質的な赤字企業である可能性が高く、企業価値創造企業として恥ずべき存在であると考える必要があろう。そういう認識が定着すれば、8%以上へ何としてもダッシュすることになろう。日本の多くの企業はその力をもっているので、成果は目に見えてこよう。

・4つ目は、配当性向を現在の30%ではなく、50%に上げよう。日本企業の横並び意識と財務戦略の不明確さを正すには、もっと配当を上げて、株主還元を進めることを想定する。総還元性向でもよいが、まずは配当を上げたら何が起きるかを考えてみると、別の姿がみえてくる。効果は3つほど考えられる。1)増配は株主にとってありがたいことであり、投資家層の拡大につながる。2)配当を上げるには、もっと収益性を高めようというインセンティブが働く。そして、3)過剰な内部留保を避けるので、必要な時にはエクィティ・ファイナンスを行うという機動力が高まってくる。

・5つ目は、短期、中期の従来型業績予想の開示を止めて、本当に大事にしたいKPI(重要経営指標)の開示に絞ることである。売上高、営業利益、経常利益ではなく、自らの価値創造にとって重要なKPIを設定し、それについて議論していくことが重要である。KPIは多様でよい。マネジメントは、自ら定めるKPIについて、投資家とよく議論をして、コミットしてほしい。コミットするからには、責任も問われる。

・6つ目は、統合レポート(Integrated Report)を充実させ、IRの場ではこの総合レポートに盛り込むような内容についてプレゼンをし、Q&Aを行っていくようにしてほしい。株主総会はもちろん、機関投資家説明会や個人投資家説明会でも、望ましいIRとは何かを考え、互いの自己主張をぶつけ合う必要があろう。最初はギクシャクするかもしれないが、次第にこなれてくるものと期待される。

・最後に、制度としてCSA(コミッション・シェアリング・アレンジメント)を実現すべきである。最良執行と調査をわけて、よい調査(リサーチ)にフィーを払いやすくする。これによって、機関投資家とセルサイドアナリストの役割がより充実され、独立系のアナリストも含めて、よいリサーチの出番が増えよう。質の高いレポートに対する競争が、対話の促進をサポートすることになるからである。

・これらのことが実践されれば、日本の資本市場の効率は高まり、世界の投資家を一段と引き付け、企業価値創造のリターンが国力の向上に大きく貢献しよう。策は見えている。2020年に向けて、それぞれの立場で大いに邁進したい。

株式会社日本ベル投資研究所
コラム   株式会社日本ベル投資研究所
日本ベル投資研究所は「リスクマネジメントのできる投資家と企業家の創発」を目指して活動しています。足で稼いだ情報を一工夫して、皆様にお届けします。
本情報は投資家の参考情報の提供を目的として、株式会社日本ベル投資研究所が独自の視点から書いており、投資の推奨、勧誘、助言を与えるものではありません。また、情報の正確性を保証するものでもありません。株式会社日本ベル投資研究所は、利用者が本情報を用いて行う投資判断の一切について責任を負うものではありません。