「米中貿易戦争」への違和感

2018/07/13

「全面戦争」ではない 

貿易をめぐる米中の対立は、解決の糸口をつかめません。米国は先週、340億ドル相当(年間輸入額)の中国製品に25%の追加関税を課しました。中国も当然、米国に対し同規模の関税を発動しました。

ただ、「全面的な米中貿易戦争が勃発」といった表現には、まだ違和感があります。さしあたり注視すべきは将来の不確実性が各国企業の景況感に及ぼす影響ですが、現時点で目立った悪化は特に示されていません。少なくとも、これまでの措置だけで世界経済が大混乱する可能性は、極めて低いでしょう。

「中国経済は輸出主導」ではない

実際、米中経済の巨大さに鑑みれば、この関税は小さな規模にすぎません。米国が来月発動する見込みの160億ドル分を併せても500億ドルと、中国の輸出総額(2.2兆ドル、図表1)のわずか2%です。

かつ、今の中国は輸出依存度の高い国ではありません。総生産(GDP)に占める輸出額は20%以下と、世界平均を下回っているのです(図表2)。そのため、500億ドルはGDP比0.4%にとどまります。

常識的に考えれば、米中は歩み寄るはずだが・・・ 

しかし米国は今週、楽観へ戻ろうとする金融市場に水を差しました。今度は2,000億ドル分の対中関税リストを公表したのです(ただし、上乗せされる関税は10%。また、2か月間の意見公募期間を設定)。

この関税リストには、バッグやドッグフードなど多くの消費財も含まれます。よって発動されれば、「輸入コスト増→インフレ高進→利上げ加速」という経路を通じ、米国の経済活動や株式市場に悪影響を与えます。一方、中国のダメージも無視できなくなるでしょう。よって常識的に考えれば、米国内の猛反対と中国側の譲歩(投資規制の緩和など)を受け、この粗暴な策は骨抜きになっていくはずです。

トランプ氏が大統領職に居座る限り、貿易摩擦はくすぶり続ける 

しかし、問題がいくつもあります。一番大きな問題は、トランプ大統領に常識や良識が通じるのか、です。しかも共和党の熱心な支持層は、関税などの保護貿易策をいまだに容認しています。そのため11月の中間選挙が終わるまでは、中国がどんな妥協案を示しても、トランプ氏は攻撃をやめないでしょう。

この選挙で共和党が大敗すれば、同氏の手法(他国を叩いて支持者を喜ばせる)も多少修正されるかもしれません。ただ、保護主義は同氏の一貫した立場です。よって、最終的には5,000億ドル規模(中国からの全輸入額に相当)を対象に追加関税、という同氏の警告も、「はったり」とは断言できません。

「米中」限定の問題ではない  

そうなると、中国も厳しい報復に踏み切らざるを得ません。例えば、中国で展開する米国企業への極端な規制強化、といった非関税障壁です。ここに至れば、「通商戦争が本格化」と表現してよいでしょう。

ただし、トランプ氏は欧州や日本も標的にしています。そのため、自動車などへの高関税(現行の2.5%から20%へ)が発動される可能性も否定できません。米国は大量の日本車を輸入しているので(図表3)、その場合、日本企業は事業戦略の再構築を迫られます。あるいは直接の標的とならなくても、日本は米中の対立に必ず巻き込まれます。中国から米国への輸出品には、日本の部品を含むものが少なくないからです。その意味でも、「米中」貿易戦争とひとごとのように呼ぶのは、あまり適切ではありません。

図表入りのレポートはこちら

https://www.skam.co.jp/report_column/topics/

 

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