デカップリング?:日本人が知らない米中関係の真実

2020/10/05

コロナウイルスにより米中で明暗

米国と中国の経済は、デカップリング(断絶)が進むのでしょうか。貿易や技術をめぐる米中対立(に関する日本の報道)や、表面的な主義の相違をみていると、断絶は着実に進むと言いたくなるでしょう。

コロナウイルスの発生で、対立がさらに深まったようにもみえます。中国は感染制御にひとまず成功し、景気も回復傾向です。一方、米国では感染が収束せず(ついにトランプ大統領も感染し治療中)、景気の先行きが危ぶまれます。そのため米政権は、ウイルス発生地とされる中国をさかんに責めています。

米国の対中貿易は引き続き高水準

米中の貿易関係においても、デカップリングが一時示唆されました。昨年の貿易摩擦、そして、ウイルスの流行に伴う今年1-3月期の中国景気悪化などを受け、米国の対中依存度が一旦低下したのです。

しかしその比率は、足元、貿易摩擦が激化する前の水準にほぼ戻っています(図表1)。米国の輸入に関しては、ウイルスや自宅勤務・学習の広がりに伴い、中国製の医療備品や電気機器などへの需要が増えています。要するに、米国の「脱中国」は困難であり、これは大統領が誰になろうと不変でしょう。

米企業の中国市場撤退は極めて限定的

 米国の中国に対する物品貿易赤字も、今年7月に316億ドルと巨額です。年間では、トランプ大統領の就任前年に比べ、昨年の赤字は、ほぼ横ばいです(2016年:3,468億ドル、2019年:3,452億ドル)。

結局、トランプ氏が公約とした「対中赤字の大幅減」は、未達に終わりそうです(そのため今年の選挙戦では、同氏はほとんどこれに言及せず)。また、中国から他国へ事業を移す動きも、さほど増加していません(図表2)。生産拠点や消費市場として中国は引き続き重要、と米企業は考えているからです。

金融機関や投資家は中国市場参入を加速

米国の大手金融機関(銀行や資産運用会社など)に至っては、今後の成長性を見込み、中国での事業展開を一段と積極化しています。背後にあるのは、金融市場の開放を徐々に進める中国政府の姿勢です。

そうした姿勢を受け、欧米などの投資家が重視する株式・債券指数に、昨年以降、中国株・債券が相次いで組み入れられています。かつ、株式は割安感、債券は高めの利回り(10年国債は現在3%超)が注目され、今年6月に海外勢が保有する中国債券の残高は前年比28%、中国株は同49%も増えました。

デカップリング? むしろカップリング

つまり現実に起こっているのは、むしろ米中のカップリング(結合)です。こうなるのは、米企業は、民主主義か権威主義か、資本主義か社会主義か、などの観念でなく、利潤動機で動いているためです。

しかもそうした主義の相違は、もはや曖昧です。いま中国に活力を与えているのは、資本主義的な気性に富む人々です。一方、米国は、企業や家計の支援といった社会主義的な策に傾斜しています。米国と中国は、見かけほどには異質でないのです。よって、デカップリングは、決して必然ではありません。

図表入りのレポートはこちら

https://www.skam.co.jp/report_column/topics/

 

 

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