日銀の「異次元」緩和による余波

2013/04/12

先週の日銀金融政策決定会合で打ち出された「異次元」の金融緩和に対して、国内市場は株高と円安で反応しました。堅調な米国株市場も支えとなり、日経平均は今週に入って、「甘利ライン」と言われる節目の13,000円台をかるく超え、為替市場もドル円で100円突破が視野に入る水準まで円安が進んでいます。

想定されていた内容のほとんどが盛り込まれた今回の政策セットは、質的にも量的にもインパクトがあったこと、また、政策のポイントが、2年間で2%の物価上昇率を目指し、マネタリーベース(資金供給量)を2014年末までに2倍の270兆円に拡大、(長期)国債の購入額も2年で2倍に増やすなど、「2」という数字にまとめられ、分かりやすいメッセージになったことで、市場の期待に上手く働きかけることに成功したと言えます。

「日銀が国債を銀行から買い入れ、その代金を銀行に支払うことで資金供給量を増やし、そのお金が市中に流れて経済が活性化し、そして脱デフレへ…」というのが金融緩和策のねらいです。今回の会合によって国債を買い入れる量が2倍に増えるわけですが、多額の資金が向かう先に注目が集まります。現在の株式市場は、緩和策によるインフレ期待で不動産株やREITが物色されているほか、米国債など海外資産にも資金が向かうとの思惑で円安が進み、輸出関連株などが買われています。

いずれは、大企業の設備投資や中小企業などを中心とした融資に流れていく動き、つまり、期待の働きかけから、ファンダメンタルズに裏付けられた展開となるのが理想ですが、そのためには企業の資金需要が高まることが必要で、アベノミクス3本目の矢である「成長戦略」に注目が集まっているのはこうした理由からです。ただ、先日発表された日銀短観の結果などを見ると、企業マインドの大幅な改善にはまだ時間がかかりそうで、これから本格化する国内企業の決算シーズンの状況で見極めていくことになります。

その一方で、気になるのが国債市場の動きです。今回の会合で日銀は残存期間の長い国債も購入対象としました。国債の利回り曲線(イールドカーブ)全体を低下させるねらいもあったのですが、会合後の国債市場は値動きが荒くなり、何度か取引が一時停止となる場面(サーキットブレイカー発動)がありました。日銀が買い入れる国債の規模が市場の約7割に達するため、いわば「買い占め」状態となり、今後、国債市場の流動性や安全資産としての価値が低下するのではという懸念が一部で生じているためです。

国債市場は銀行の資金の重要な運用先ですが、ここが不安定となれば、銀行が抱えるリスクが増えることになり、それに伴って銀行のリスク許容度も低下することになります。日銀の意図に反して、長期金利が上昇傾向になるようであれば、例えば設備投資を行おうとする企業の資金調達需要の足を引っ張ることにもつながりかねません。

日銀は11日の夕方に「市場参加者との意見交換会」を開催します。以降も定期的に開催される予定ですが、これも今回の会合で決定した「市場参加者との対話強化」の取り組みのひとつです。ひとまず国債市場が落ち着いてくれば、日銀が市場参加者との対話に成功したと受け止められるため、株高と円安の地合いが続きやすくなると思われます。

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