米国経済と株式市場-リスクは多いが危機には遠い

2018/10/17 <>

金融危機前夜か?

先週は、米国株の急落を受け世界中の株価が大きく下落しました。金融危機の前触れなのでしょうか。

「危機」の定義にもよりますが、現時点では、そこまで恐れる必要はないと思われます。よく指摘されるのは、米国の金利上昇と米中の貿易摩擦です。しかし金利上昇は米国の好景気を反映しているので、必ずしも株安要因ではないはずです。また、貿易摩擦で中国経済が急減速している証拠は特にみられません。よって危機を叫ぶ声に押されて株式投資などを本格的に手仕舞うのは、まだ早いと考えられます。

異彩を放つ米国の好景気

米経済は実際堅調で、中でも失業率は48年ぶりの低水準です。主要企業の7-9月期決算では、全体で前年比約20%の増益率が見込まれます。これらを受け、個人や企業の景況感は極めて高い水準です。

国際通貨基金(IMF)が先週発表した見通しでも、米国の強さが際立ちます。主要先進国では米国のみ、今年の成長率が昨年を上回る見通しです(図表1)。世界全体では7月時点の見通しから下方修正されたものの(3.9%→3.7%)、過去5年間の平均(3.5%)は上回っています。米国のおかげでしょう。

世界経済の三つの問題

ただし問題も含んでいます。第一に、米国と他国との景気格差が広がっていることです。これは金融政策の違いを通じ、資金の流れに偏りをもたらします。好景気を背景に、ほぼ米国のみが着々と利上げを進めているからです。それはドル高を促し、ドル建て負債を多くかかえる新興国の経済を圧迫します。

第二に、米国の高成長は持続的なものではありません。来年以降は、実力の成長率(2%程度)へ向け失速していくでしょう。減税や財政支出の景気浮揚効果が薄れる一方、利上げなどに伴う金利上昇が景気を抑制するからです。第三に、米中貿易摩擦の行方や影響がまだわからないことも、問題の一つです。

テクノロジー株の上昇には危うさも

好決算を受け16日の米国株は急反発しましたが、以上のような問題がある以上、油断はできません。

米国株固有の危うさもあります。金融危機の後、世界中でリスクが次々に浮上したにもかかわらず、S&P500の強気相場が9年半も続いているのです(直近高値から20%以上の下落を一度も経験していない)。これは史上最長記録です。今の相場を主導しているのはテクノロジー株ですが(図表2)、その多くは現在の企業利益というより、遠い将来までの成長期待で買われ、割高感が強まっています。このため将来の不確実性が高まったり相場が不安定になったりすると、先週のように真っ先に売られます。

日本については消費税増税がリスクだが

それでも米国株の強気相場は、まだ続く可能性が十分あります。金利上昇も貿易摩擦も米国自らが招いたことです。よって危機が察知されれば、利上げをストップし、中国とも一旦和解すればよいのです。

日本株も米国株に追随する見込みですが、来年10月の消費税増税(に伴う景気悪化)には要注意です。ただ、軽減税率などのため2014年の増税時ほどの大打撃はなさそうです。また、「リーマンショック級の出来事(金融危機)」を口実とした増税延期もあり得ます。本当の金融危機が起こる可能性は低いとはいえ、現政権が叫ぶ「危機」の定義は途方もなく広いのです(2年前の増税延期決定時に確認済み)。

図表入りのレポートはこちら

https://www.skam.co.jp/report_column/topics/

 

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