為替調整で米貿易不均衡は是正されるか

2017/01/30

市川レポート(No.346)為替調整で米貿易不均衡は是正されるか

  • マーシャル=ラーナー条件が成立なら通貨安で貿易赤字減、ただ実現するケースは相当限定的。
  • アブソープション・アプローチでは、貿易(経常)収支の赤字は国全体が資金不足であると考える。
  • 貿易赤字削減のため財政均衡による資金不足縮小は一案だが、トランプ政権は財政拡張志向。

マーシャル=ラーナー条件が成立なら通貨安で貿易赤字減、ただ実現するケースは相当限定的

トランプ大統領は1月26日の共和党両院集会において、今後の通商交渉では通貨安誘導に極めて強い制限を導入すると述べました。これはドル高是正を求める米自動車業界などの意向を踏まえたものと思われます。トランプ大統領は日本との自動車分野の貿易不均衡を問題視しているとみられるため、2月10日に予定されている日米首脳会談では、通商協議の行方が注目されます。

そこで今回は為替レートの調整によって、貿易不均衡が解消されるのか否かについて考えます。理論的には、米国でマーシャル=ラーナー条件(輸入数量の価格弾力性と輸出数量の価格弾力性の和が1より大きい)が成立していれば、ドル安で貿易赤字は削減されることになります。ただし条件の成立は、当初の貿易収支の均衡が前提となるため、実現するケースは相当限定されます。

アブソープション・アプローチでは、貿易(経常)収支の赤字は国全体が資金不足であると考える

また貿易収支を含む経常収支については、貯蓄・投資ギャップの観点から議論するアブソープション・アプローチという方法があります。GDPを支出面からみると、消費(C)+投資(I)+政府支出(G)+輸出(EX)-輸入(IM)となり、分配面からみると、消費(C)+貯蓄(S)+税金(T)となります。2式は等しいので1式にまとめて整理すると、貯蓄(S)-投資(I)+税金(T)-政府支出(G)=輸出(EX)-輸入(IM)となります。

貯蓄(S)-投資(I)は民間部門の貯蓄・投資差額で、税金(T)-政府支出(G)は政府部門の貯蓄・投資差額を表します。もし民間部門が貯蓄超過で、政府部門も貯蓄超過(税収が政府支出を上回る)であれば、1国全体で資金余剰となり、輸出(EX)-輸入(IM)は黒字となります。逆もしかりで、民間部門と政府部門が投資超過であれば、国全体で資金不足となり、輸出(EX)-輸入(IM)は赤字となります。

貿易赤字削減のため財政均衡による資金不足縮小は一案だが、トランプ政権は財政拡張志向

米国について、2015年の民間(家計・企業)部門および政府部門の資金過不足をみると、家計部門は資金余剰、企業部門と政府部門は資金不足で、米国全体では約4,779億ドルの資金不足となっており、この金額は経常赤字の約4,630億ドルとほぼ一致します(図表1)。また日本についても検証すると、2015年は日本全体で16兆1,416億円の資金余剰となっており、この金額は経常黒字の16兆4,127億円とほぼ一致します(図表2)。

理論的には生産市場が均衡していれば、国全体の資金過不足は、貿易収支を含む経常収支に一致します。そのため、前述の通りドル安で貿易赤字が削減できるケースはかなり限定的である以上、トランプ大統領が根本的に貿易不均衡を解消しようとするのであれば、まずは米国の資金不足の縮小(例えば財政赤字の縮小)に努めることも一案と考えます。ただトランプ大統領は大規模な減税とインフラ投資を公約としており、むしろ資金不足の拡大が懸念されるため、貿易赤字の削減は容易ではないと思われます。

170130図表1    170130図表2

 

 

 

 (2017年1月30日)

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