研究開発体制のグローバル化~タケダのケース

2016/10/21

・日本企業のグローバル化はどこまで進むのだろうか。昨今は円安になっても、輸出は思うように伸びなくなった。かつては、安くていいものを日本で作って、世界に輸出するというのが基本パターンであった。円高によってコスト競争力を失うと海外のコストの安いところで作ろうと、多くの日本企業は工場を海外へ移した。

・日本で開発したものが、そのまま世界で売れるわけではない。現地のニーズに合ったものを生産販売する必要がある。地産地消を進める企業が増えてきた。現地に合うデザインが日本人でできるのか。エンジンまで海外で作って大丈夫なのか。日本の品質の良さは日本の工場で生まれる。それを海外で作ってよいのか。商品・サービスの強みをどこで産み出すのか。

・本物の強みをいかに作り出すのかという問いに対して、答えは多様である。その会社が有しているこれまでの強みをさらに強化するには、イノベーションの連鎖が必要である。従来の強みがどこかで破壊される可能性があるので、次のステージに向かうイノベーションに挑戦し、それを具現化していかないと、その企業のサステナビリティ(持続性)はとぎれてしまう。

・9月と10月に、武田薬品工業のクリストフ ウェバー社長と、長谷川閑史会長の話を聴く機会があった。日本の医療品会社を、どのように世界で戦える企業に変えていくのか。外国人の社長(クリストフ ウェバーCEO)を迎えて、日本企業をどこまで変身させていくのか。いくつかの論点を取り上げてみた。

・ウェバー社長は3つの点を強調した。第1は、分子生物学に時代になって、新薬の5割が大学やベンチャーから発見されており、こことの連携が不可欠である。第2は、新興市場が伸びる中で、日本市場は相対的に小さくなっており、グローバルに勝負することが求められる。第3は、タケダは新薬開発のR&Dで、絞った分野に集中し、エッジを利かせていく。そして、タケダの将来を切り開いていくと語った。

・長谷川会長は、“変化を恐れるな”という。何もしないことが日本企業にとって最大のリスクテーキングになると警鐘を鳴らす。経営トップに求められる資質、経験、知識、スキルには共通するものが多いが、タケダの場合には、1)グローバル競争を生き抜くための大型M&A、2)コアでないビジネスの整理、3)コア事業の強化、4)外部人材の導入などをやり抜く勇気や胆力と実行力が求められた。

・ノンコアビジネスの売却では、2000年から2006年までに動物薬、ビタミンバルク、化成品、食品、農業、生活環境などの分野から撤退した。いずれも儲かってはいたが、1)収益性は劣る、2)マネジメントの時間をこれらに配分するのは効率的でない、という観点で売却した。

・その時に、1)まずその分野でトップ3に入る会社と組む、2)合弁(JV)にして、5年間はその形で事業を継続し、タケダはマイノリティの資本を持つ、3)その事業にいたタケダの社員は例外なく全員移ってもらう、4)5年を経て完全撤退する、というプロセスをとった。新薬の開発企業に特化するためであるが、それ以外の事業の行く末にも十分配慮した。

・2003年に、創業家の武田國男氏から社長を引き継いだ。武田氏は、タケダを筋肉質の会社にしようと徹底した。それを受け継ぐ長谷川氏は、グローバル化を進めることが使命であると強く認識した。医療品会社の事業の根幹はR&Dにあり、がん、アルツハイマーのほか、オーファン(希少疾病用)ドラッグなど、まだ十分な治療薬がないアンメットメディカルニーズにフォーカスした。

・90年代に、4つの大型新薬(ブロックバスター)を出して、会社は大きく儲かった。しかし、いずれ特許が切れる。そうなれば、数か月でその新薬の売上高は激減する。ジェネリック医薬品が出てくるからである。

・それが分かっていたので、企業としては新しい医療品を出す必要があり、それに全力で取り組んだ。しかし、思うように新薬はでなかった。売上高の20%近くをR&Dにつぎ込んだ。大ヒットした新薬で売上高営業利益率は35%も確保したが、どこかで自家撞着に陥ったかもしれない、と長谷川会長は当時を振り返る。

・なぜ新薬が出にくくなったのか。グローバルなパラダイムシフトに敏感でなかった。2000年までは低分子化合物で新薬ができた。糖尿病、高血圧、胃潰瘍などの新薬が作られた。しかし、その後の新薬開発は低分子では上手くいかなくなっていた。米国は高分子化合物やバイオ医薬品(遺伝子組み換え)に移っていた。日本は低分子の成功体験にこだわって、NIHシンドローム(既存のものにこだわり、新しいアイデアを採用しない風土)にあったのかもしれないという。

・そうした局面で社長になった。R&Dの生産性を高める必要があった。新薬開発の会社に特化する方向ははっきりしていた。世界のトップ10の医薬品企業を分析し、そのギャップをうめること(gap-filling)を追求した。

・過去の大型新薬で稼ぎ、バランスシートに2兆円のキャッシュがあった。IRミーティングでは次世代新薬のパイプラインが十分でないといわれた。2兆円でM&Aをやると決めた、と長谷川会長は語る。しかし、これまでクロスボーダーのM&Aの経験がない。そこで、2005年にシリックス(サンディエゴ、タンパク質解析)や2007年パラダイムセラビューティック(ケンブリッジ、モデル動物作成)を買収して、R&Dの強化を開始した。

・この経験をベースに、2008年にミレニアム(ボストン、がん領域のバイオベンチャー)を9000億円で買収した。社員1000人の会社である。グローバル経営の経験がなかったので、5年間は自主経営に任せた。

・次に、2011年にナイコメッド(チューリッヒ、新興国に強い医薬品会社)を1.1兆円で買収した。社員は1.2万人である。この時のM&Aは、先に買収したミレニアムの人材を活用した。ミレニアムの時は長谷川会長が先頭に立ち、M&Aをまとめた。ミレニアムの人材を維持するためにリテンションの仕組みを用意し、経営もまかせた。その間にミレニアムをリサーチのハブにした。

・タケダのグローバ経営について、長谷川会長は5つの点を強調する。1つは、グローバルな競争力につけるには、キーとなるポジションの仕組みをグローバルスタンダードにせざるを得ない。2つは、M&A後のインテグレーションについては、本当にコントロールする力が日本企業にあるのか。なければ、グローバルワン(世界統一経営)はできない。

・3つ目は、ナイコメッドのあるスイスにグローバル本社をおいた。JT(日本たばこ)方式である。4つ目は、グローバルヘッドは日本人ではない。グローバルな人材を選んでいくと、非日本人になってしまう。5つ目は、成功体験である。成功体験のある人材を登用していかないとグローバル経営はできない。

・11年間社長を務め、後継者を選ぶことになった。次の時代に向けて、グローバルな競争力を有する会社に飛躍するため、それにふさわしいトップを選ぶ必要があった。ヘッドハンターは使わずに、グローバルアドバイザリーボードの4名を活用した。社内外でさまざまな候補をリストアップし、外部の専門家を使って人材の評価を行った。社外役員の面談を経て、最後に長谷川社長(当時)が本人(クリストフ・ウェバー氏)にオファーした。

・タケダは監査等委員会設置会社である。15人の取締役のうち、執行サイドは5名、社外が10名(うち監査等委員4名)である。外国人は執行で2人、社外で2人である。指名委員会、報酬委員会は諮問機関として置いている。

・執行サイドのTET(タケダ・エグゼクティブ・チーム)は、ウェバーCEOのもと14名で構成される。そのうち、日本人は4名である。タケダのグローバルな社員数は3.2万人、うち日本は9000人である。長谷川会長は、エグゼクティブの日本人比率も、全社員の日本人比率も28%前後で、ほぼ同じであると語る。つまり、日本人中心ではない。

・R&Dの生産性向上はまだ道半ばである、と長谷川会長はいう。タケダの研究拠点は、米国のボストンを主軸とする。ITにおけるシリコンバレーのように、新薬開発はベンチャー企業も含めて、ボストンがメッカである。ここのインナーコミュニティに入っていないと、世界のトップクラスには成り上がれない。日本の湘南にいる研究者もボストンに挑戦していく。

・コマツは、日本のR&Dをベースに、建設機械で世界のトップを競う。トヨタは自動運転時代に備えて、シリコンバレーに一大R&D拠点を作った。日産は日本をベースとしながらも、トップマネジメント(カルロス・ゴーン氏)は外国人であり、社内は外資系企業といってもよい。タケダは、医薬品分野でグローバルトップクラスを目指す。

・日本拠点、日本人優位の仕組み(ビジネスモデル)は難しいと判断して、グローバルスタンダードをベースに、タケダイズムの追求を目指している。タケダの創業の精神はグローバルに通用する。その時、日本人はどこまで活躍できるのか。

・この問い自体がすでに古いともいえる。グローバル企業で働くには、何人であろうが、グローバル人材としてその企業で能力を発揮し、活躍することが求められる。タケダの次なるグローバル展開に注目したい。

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