対話の極意

2015/08/24

・対話とは、何らかのテーマについて意見を交換することである。互いに言いっぱなしではなく、そこから改善の方向とか進むべき道について、有意義な示唆が得られることを期待する。企業価値向上における経営者と投資家の対話は、その意味において単なる話し合いではない。互いに納得できることを踏まえて、合意できないことについても的確に認識することである。その上で、ソリューションを求めていく。

・対話の極意とは何か。かつて、NRIの先輩から伝授されたコンサルの達人の流儀に通じるものがある。それは「話し上手、聞き上手、話させ上手」である。こちらからはポイントを絞って分かり易く話す必要がある。そして、先方の話をよく聞き、話を引き出し、対話の領域を広げていく。そうすると、互いに話しながら、今まで気がつかなかったこと、十分納得できなかったこと、新しい論理展開やアイデアが浮かんでくる。それが次の意思決定に活きてくればこの上ない。

・ところが、同じ話をしても、相手によっては不愉快になり、聞き入れられないことが間々起こりうる。単なる好き嫌いや相性の悪さだけともいえない。対話が噛み合っていないのである。一方的に言いたいことを言って、相手を説得しようとしてむきになり、分かってくれないと、これはダメだと突き放してしまう。

・対話の極意は、互いに話させ上手になって、ゆっくり理解を深めることにある。人の考えというのは大体でき上がって、固まっている。そこには思い込みもある。それを棚卸して、もう一度磨くには時間がかかる。人は自分に合わないものを否定したくなる。そこを、この人が言うなら考えてみようという姿勢になるには信頼関係がベースになる。資本の論理を振りかざしても上手くいかない場合が多い。

・例えば、資本コストを考えてみよう、ファイナンス理論を学んだ人は頭では分かっている。では、金融関係者で資本コストを自らの企業のマネジメントに本当に活かしているかと問われれば、素直に頷けない面もある。資本コストを上場企業の経営者にどのように分かってもらうか。頭で数式の意味を理解するのではない。そんなことは十分分かっている。大事なことは、企業経営の実践の場面にどのように組み込んでいくかである。その取り込み方には工夫が必要である。それぞれの現場で使えるように落とし込んでいく。その落とし込み方について対話しましょうといわれたら、経営者も投資家もどんな反応を見せるだろうか。躊躇するか、乗ってくるか。今、ここが問われている。

・経済産業省が今年3月に「経営者・投資家フォーラム(MIF)に関する報告書(委託先トーマツ)を出した。その内容をみると、3つの仮説に対する検証を試みた。1つ目は、中長期投資が中長期的経営を可能とするか。2つ目は、企業と投資家の建設的な対話は中長期的な投資を促進するか。3つ目は、日本企業と投資家との間の建設的な対話はその質が低いのではないか。

・これらの仮説に対して、文献調査や公開情報調査、ヒアリング調査を行った。結果としては、1)持続的な成長に取り組む企業には、中長期投資家による株式保有がみられ、5年以上の投資では収益性や資本効率の向上につながっている。2)対話のあり方は多様であるが、ファンダメンタルな情報分析や議決権行使を通じたエンゲージメントが長期的投資を促進するし、長期的視点を有する投資家の方がCSRやESGに強い関心を持つ。3)企業と投資家の間にはギャップが存在する可能性があり、そのギャップの解消に努力してきた面もある。このような内容であった。

・今のところ傍証はあるが、確実とはいえないのかもしれない。中長期投資と中長期的経営が上手く好循環を作り出すことができるか。過去と現状をみても一義的な関係を見出すことは必ずしも十分ではない。上手くいっている例もあるし、優良企業にはその傾向がみられる、というのが実態であろう。

・SSC(スチュワードシップ・コード)、CGC(コーポレートガバナンス・コード)の実践が始まった。ここで二極化論が出ている。当然の見方であろう。つまり、きちんとできるところと、形だけ整えようというところに二極化するという見方である。投資家としては、きちんと実行する企業に投資すればよい。企業にすれば、中長期的投資を考える投資家を相手にすればよい、というスタンスになる。

・しかし、これでは不十分である。今問われているのは、日本の稼ぐ力の向上である。一部の優良企業と一部の機関投資家がよいパフォーマンスを上げればよいというのではなく、全体の水準を押し上げるような対話に持っていく必要がある。対話の達人を是非とも増やす必要があろう。

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