楽天証券投資Weekly 2013年11月15日 第63号
マーケットコメント:日経平均は15,100円台に乗せ、三角保合いの上限を突破した。今後の展開が注目される。
日経平均は三角保合いの下限近くから上限を上回るまで上昇:2013年11月5日の週の株式市場は、前週の動きから一転して大幅高となりました。
先週の本稿で、日経平均が三角保合いの下限に接近していること、日本企業のファンダメンタルズは決算を見る限り概ね良好で株価には割安感があり、押し目買いを入れても良い水準であると書きました。実際に日経平均は、11月8日に三角保合いの下限近くにある14,000円に接近した後反発しましたが、今回はこれまでの三角保合いの中での反発局面よりも強い動きとなりました。11月14日に三角保合いの上限である14,600~14,700円どころの上値抵抗線を突破、15日には節目である15,000円を上回り、15日の日経平均は前日比289.51円高の15,165.92円で引けました。日経平均が三角保合いを上方にブレイクしたこと、日本企業のファンダメンタルズの良好さが2014年3月期2Q決算から確認されたことから、日経平均は上値を目指した新たな波動を形成する可能性があります。当面は16,000円を目指す動きが期待できそうです。
グラフ1 日経平均株価:日足
アメリカは金融緩和を継続か:日経平均の動きの背景にはアメリカの動きがあります。ニューヨークダウは10月9日に底入れした後、アメリカ景気の回復期待と金融緩和継続期待を背景に順調に上昇し、11月6日からはほぼ連日過去最高値を更新中です。アメリカ景気を見ると、11月8日に発表された10月のアメリカ雇用統計が前月比20万4,000人増加(非農業部門)と市場の事前予想を上回りました。これを受けて一時金融緩和縮小が早期に始まるという観測が出てきました。しかし、14日のアメリカ上院の公聴会において、次期FBR議長に指名されているイエレンFBR副議長は、アメリカ経済が力強い回復を達成するまで今の金融緩和を続けると言明しました。これを受けて14日のニューヨークダウは最高値を更新しました。
グラフ2 アメリカ雇用統計:非農業部門被雇用者数
表1 アメリカ雇用統計:非農業部門被雇用者数と前月比、失業率(季節調整済み)
日米金利差は再び拡大、円安へ:このような動きを見ると、日本株を取り巻く状況が新たな展開に入った可能性があります。まず日米金利を見ると、日本銀行の大型金融緩和継続を反映して、短期金利は低水準を持続し、中長期債、超長期債は7月をピークに低下し続けています。一方、アメリカ金利はFRBの金融緩和縮小が近いという観測から8月まで上昇していましたが、9月からアメリカの政府機関閉鎖問題と債務不履行問題から債券への資金逃避が起こった模様で、長期金利は下落しました。その結果、それまで上昇してきた日米金利差も縮小する方向(理屈で言えば円高の方向)に転じました。それが、イエレン氏が金融緩和継続論者であることからアメリカ景気の回復継続への期待が強くなった模様で、アメリカ長期金利は10月下旬から再び上昇し始め、日米金利差も拡大(理屈で言えば円安)の方向に向かっています。
為替レートを見ると、欧州景気の回復期待からユーロ円レートは円安方向への動きが続いていましたが、ドル円レートでも、日米金利差拡大から円安方向になってきており、11月14日は9月11日以来の1ドル=100円台に入りました。
グラフ4 年限別国債利回り
日本企業のファンダメンタルズは概ね良好、円安で上乗せ期待も:2014年3月期2Q決算の発表がほぼ終わりました。先週まで重要な決算についてコメントしましたが、輸出・グローバル関連では、自動車(トヨタ自動車、本田技研工業、富士重工業、マツダ、日野自動車、いすゞ自動車、デンソーなど)、電機の一部(日立製作所、パナソニックなど)、電子部品(村田製作所、京セラ、日本電産、ヒロセ電機など)、総合商社(三菱商事、丸紅など)が好調な決算あるいは業績回復を示す決算を出しました。
自動車は円安と日本販売の堅調、アメリカの好調がアセアンのスローダウンを補いました。下期は1ドル=95円で前提している会社が多いため、今の1ドル=100円が続けば業績上乗せが期待できます。電機の一部では、日立製作所がインフラ関連事業と円安が寄与しました。また、パナソニックでは、住宅関連、自動車関連の好調がデジタルAV機器やエアコンの不振を補って通期上方修正となりました。電子部品では日本電産が従来から業績の大きな柱だったHDD用スピンドルモーターに頼らずに、自動車向け、家電向け、一般産業向けモーターで稼ぐ体制を整えつつあります。村田製作所は、スマートフォン向けと自動車向けが伸びました。スマートフォン向けでは、サムスン、アップルなどの大手向けだけでなく、中国などの格安スマホメーカーやソニーのような新興勢力の伸びも寄与したと思われます。また、総合商社は、資源価格の下落が足を引っ張ったものの、LNG取引の拡大、自動車、プラントなどの非資源分野が伸びたことが寄与しました。
内需分野を見ると、不動産では三菱地所、三井不動産で、オフィス賃貸料の値上げが浸透しつつありますが、これは三菱地所は丸の内、大手町、三井不動産は日本橋、三越前と好立地のオフィスビルを多数抱えているからであり、この2社以外は値上げの話し合いを始めたところが多い模様です。マンション販売を見ると、住友不動産のマンション販売が大幅に増えました。首都圏中心に地価の先高感が強く、消費税増税前の駆け込み需要はありましたが、反動は軽微と思われます。不動産セクターは、地価の先高感と大型再開発が注目されますが、大手3社とそれ以外の会社との差が大きくなっていると思われます。
建設分野も活況でした。日立建機、タダノなどの中堅建設機械会社が、国内の復興需要、再開発需要、災害対策需要などとアメリカ市場の好調の恩恵を受けて業績好調でした。太平洋セメントのような建設資材関連も業績好調でした。太平洋セメントでは、上期の東北向けのセメント、生コンが各々前年比26%、23%伸びました。東京や九州などでも伸びましたが、災害対策需要もあると思われます。また、長らく横ばいだったセメント価格を来年3月までに500円/トン引き上げる方針です。この値上げで来期に年間約80億円の営業利益増益効果があります。
一方建設会社は、大手の大成建設、大林組、鹿島建設、清水建設の4社が何らかの形で業績見通しを下方修正しました。大成建設は、過日上期見通しを上方修正したにもかかわらず通期営業利益見通しを下方修正しました(即ち下期見通しを下方修正)。大林組、鹿島建設も通期業績見通しを下方修正しました。清水建設は上期が好調だったにもかかわらず、通期見通しを修正しませんでした。
このように、下期下方修正の要因となったものは、建設現場の労務費(特に型枠工、鉄筋工)の急激な上昇、資材費の上昇、現場監督の不足です。昨年から東北の被災地の復興需要、首都圏の大型再開発、地方の洪水対策などの工事が増えています。このため、過去の建設不況時に低下した建設技能者の労務費が上昇しているのです。例えば、東北の鉄筋工が日給1万8,000円なのに対して、東京では同2万8,000円になっています。数も圧倒的に足りなくなっています。この結果、前期以前に受注した工事の採算が急速に悪化している模様です。大手ゼネコンほど長期で大型の工事が多いため、労務費、資材費の上昇の影響を大きく受けるのです。
この問題は、今建設している工事が終わる来期下期頃まで続くと思われます。一方で、足元では工事案件は建築、土木を問わず沢山あり、大手から中堅、専門まで建設会社は受注には困りません。そのため各社とも採算を重視して選別受注する方針です。このため、来期には大手建設会社の業績は回復に向かうと思われます。
また、NIPPO(道路舗装の大手)、ショーボンドホールディングス(補修工事の大手)などの業績は好調です。ショーボンドホールディングス(2014年6月期)の1Q(7-9月期)は営業利益が倍増しました。労務費、資材費上昇は起こっていますが、受注単位が大手に比べ小さく、コスト上昇を価格転嫁しやすいと思われます。
建設・不動産セクターへの投資は重要な分野だと思われますが、大手不動産会社(三菱地所、三井不動産、住友不動産)、専門建設会社(NIPPO、ショーボンドホールディングス)、建設資材(太平洋セメント)、建設機械、ダンプカーなどの現場車両(日立建機、タダノ、日野自動車、いすゞ自動車など)の分野に注目したいと思います。
株価は内需系が上値を指向する一方で、輸出・グローバル系に出遅れ感:業種別株価指数を見ると、内需系(不動産、素材など)が5月高値をうかがう勢いであり、それを輸出・グローバル系(自動車、電機など)が追う形になっています。今期の業績変化率の大きさとPERの低さを考えると、自動車株の出遅れ感が強いように感じます(グラフ9~12)。
11月18日の週のスケジュール:日本では11月20、21日に日銀金融政策決定会合があります。また20日は、10月の貿易統計が公表されます。アメリカでは20日に10月の中古住宅販売件数が公表されます。為替レートとの関連で、10月の貿易統計に注目したいと思います。
経済カレンダー
https://www.rakuten-sec.co.jp/web/market/calendar/
表2 楽天証券投資WEEKLY
グラフ7 信用取引評価損益率と日経平均株価
グラフ8 東証各指数(11月14日まで)を2012年11月14日を起点(=100)として指数化
グラフ9 輸出・グローバル関連:11月14日までの株価を2012年11月14日を起点(=100)として指数化
グラフ10 内需関連(11月14日までの株価を2012年11月14日を起点として指数化)
グラフ11 金融関連(11月14日までの株価を2012年11月14日を起点として指数化)
グラフ12 素材、情報通信(11月14日までの株価を2012年11月14日を起点として指数化)
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