『食の世界王者』ブラジルの危機
ブラジルにおける水不足によって世界のオレンジとコーヒーが危機にさらされるかもしれない(参考)。
コーヒー、砂糖、オレンジジュースにおいて世界最大の輸出国であるブラジルで、雨がほとんど降らない雨季となったためだ。
この時期は、コーヒーの木が豆の成長のために水分を必要とする重要な時期である。ブラジルのオレンジ畑の約30%、アラビカコーヒー畑の約15%が灌漑されている。
(図表:コーヒー豆)
(出典:Wikipedia)
ブラジルでは、この時期に乾燥した気候が続くことは珍しくはないものの、例年よりも長く続くことが予想されており、懸念材料となっている。最も被害の大きかった地域では、降水量が通常の半分以下だった(参考)。
世界のオレンジ生産量の国別ランキングでブラジルは1位であり、2位は中国、3位はインド、4位は米国である(参考)。
コーヒー豆の生産量でも1位はブラジルだ。2位はベトナム、3位はコロンビア、4位はインドネシア、5位はエチオピアと続く。
世界の砂糖の生産国のトップもブラジルだ。2位はインド、3位はEU、4位は中国、5位はタイとなっている(参考)。
現在、世界中であらゆる商品(コモディティ)が不足状態になっている。今次パンデミックを経て、爆発的に高まる需要に備えて、企業が必死になって在庫を確保しようとしているからだ。銅、鉄鉱石、鉄鋼、とうもろこし、コーヒー、小麦、大豆、木材、半導体、包装用のプラスチックや段ボールなどが不足状態に陥っている。輸送ボトルネックや価格高騰は最近の記憶にないほどの高水準に近づいており、超過給された世界経済がインフレを誘発するのではないかという懸念まで高まっている(参考)。
(図表:オレンジ)
(出典:Wikipedia)
そのような中、マクロン仏大統領がフランスの果物、野菜、鶏肉が安価な外国商品との競争に負け続けていることを受けて、「食料を委譲するのは間違いだ」と訴えた。COVID-19によってフランスの「食糧主権」(la souveraineté alimentaire)の脆弱性が露わになったことを危惧し、その再考を呼びかけたものだ(参考)。
マクロン大統領は、低コストの外国産農業を厳しく批判したいと考えている。フランスの食料主権の低下を危惧する農家の声を受け、輸入農産物の基準を欧州(EU)の基準に合わせるように行動する予定である。しかし、欧州(EU)とメルコスール(南米貿易圏)との自由貿易協定の草案はまだ議論中であり、商品の原産地を表示する法的義務もないため、戦いの勝利にはほど遠い状況だ(参考)。
我が国においても、コーヒー豆、オレンジに限らず、世界の食料需給動向に関する懸念を背景に農業大国の一つであるブラジルの輸出力が注目されてきた。ブラジル農作物の主な輸出相手国は1位が中国、2位がEU、3位が米国で、我が国は4位である(参考)。
農産物の指数に連動するETFがある。最近出来高が増えつつある投資商品である。たとえば、東証に上場しているETFに「WisdomTree農産物上場投資信託」(1687)がある。
「Bloomberg Agriculture SubIndex」によって測定され、ECBOT(シカゴ商品取引所/電子取引)、ICE-US(米インターコンチネンタル取引所)において流動性の高い農産物先物9銘柄に連動するETCである(参考)。コーヒー、トウモロコシ、綿花、大豆、大豆油、砂糖および小麦の先物契約で構成されている(参考)。
まだ売買高としては小さいものの、今次パンデミックをきっかけに各国が「食糧主権」についても再考し、世界的な「食糧問題」が深刻化する中で、農作物ETFが今後どのように発展していくのか、引き続き注視して参りたい。
グローバル・インテリジェンス・ユニット Senior Analyst
二宮美樹 記す
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