アクセルスペースホールディングス(402A)衛星製造の標準化・量産化によるコスト削減と運用衛星機数の拡大で成長目指す
顧客向け小型衛星の開発・製造・運用と画像データ及びソリューションを提供
衛星製造の標準化・量産化によるコスト削減と運用衛星機数の拡大で成長目指す
業種:輸送用機器
アナリスト:鎌田良彦
◆ 顧客向け小型衛星の開発・製造・運用と自社衛星のデータ販売を展開
アクセルスペースホールディングス(以下、同社)グループは、経営管理等を行う持株会社の同社と、事業子会社であるアクセルスペースの2社で構成されている。同社グループは顧客向けに小型衛星の開発・製造・打ち上げ後の運用を行うAxelLiner事業と、自社で保有する光学地球観測衛星コンステレーション注1により取得した画像データ及び画像データを加工・分析したソリューションを提供するAxelGlobe事業を展開している。
25/5期の売上高構成比は、AxelLiner事業が83.6%、AxelGlobe事業が16.4%であった(図表1)。
◆ AxelLiner事業
08年8月に設立された同社の前身のアクセルスペースにより、顧客の要望に応じた小型衛星の開発・製造・運用を行ってきた。実績としては、ウェザーニューズ(4825東証プライム)から受注した北極海航路監視用超小型衛星「WNISAT(ダブリュエヌアイサット)-1」及び後継機の「WNISAT-1R」、東京大学主導のプロジェクトでビジネス実証用超小型衛星「ほどよし1号機」、宇宙航空研究開発機構(以下、JAXA)の小型実証衛星「RAPIS(ラピス)-1」の4機がある。
これらの衛星に関連する売上高は、「人工衛星等の開発・製造・試験、運用等」に計上されるが、4機の衛星は25年5月までに順次運用を終了したことから、「人工衛星等の開発・製造・試験、運用等」の売上高は減少してきている(図表2)。
足元の売上高の太宗は、政府系機関から委託を受けて取り組んでいるプロジェクトからの収益であり、「委託試験研究サービス」として計上されている。
委託試験研究サービスの主要プロジェクトは以下の2件である。
1) 光通信等の衛星コンステレーション基盤技術の開発・実証
新エネルギー・産業技術総合開発機構(以下、NEDO)が公募した「経済安全保障重要技術育成プログラム」のテーマの一つで、22年度から31年度までの10年間のプロジェクトである。アクセルスペースとNTT(9432東証プライム)とスカパーJSATホールディングス(9412東証プライム)傘下のスカパーJSATとの合弁会社であるSpace Compass、情報通信研究機構(以下、NICT)、日本電気(6701東証プライム)が共同で受託している。
同プロジェクトは、光通信衛星を打上げ、大容量・低遅延でのデータ通信・データ処理が可能な衛星光通信ネットワーク技術の開発・実証を目的としている。同社グループは、小型の光通信衛星及びネットワーク統合制御システムの開発、実証のための光通信ターミナル搭載の地球観測衛星や電波地上局の構築を担当している。
2) Beyond 5G次世代小型衛星コンステレーション向け電波・光ハイブリッド通信技術の研究開発21年にNICTから委託された案件で、24年度まで実施された。東京大学、東京工業大学(現・東京科学大学)、清原光学(東京都板橋区)とともに、次世代小型通信衛星コンステレーション構築に向けた光通信機等の開発を行った。
主要販売先として開示されているNEDO、NICT向け売上高は、上記の2プロジェクトに関するものである(図表3)。
AxelLiner事業の収益としては売上高以外に、営業外収益に計上される補助金収入がある。主な補助金収入としては、21年から経済産業省の「超小型衛星コンステレーション技術開発実証事業」の補助事業者となり、小型衛星の設計の汎用化、製造の効率化、運用の自立化・自動化の実証を進めてきたことへの補助金が挙げられる。
上述の「超小型衛星コンステレーション技術開発実証事業」は、23年度以降はNEDOの「宇宙産業技術情報基盤整備研究開発事業(超小型衛星の汎用バスの開発・実証支援)」に引き継がれ、26年度まで実施の予定である。
AxelLiner事業は、顧客が宇宙空間で行いたい事業のデザインサポートから、衛星の開発・製造・運用までをパッケージ化してワンストップで提供することを目指し、それまでの顧客毎に専用衛星を開発・製造していた事業を見直して22年4月に開始された。
衛星は電源、姿勢制御、通信等の衛星の種類が違っても共通的に必要となる機能と主構造からなる衛星バスと、衛星の主目的に応じて搭載されるミッション機器からなる。同社は、過去の衛星の製造経験や上記の補助事業での技術開発の成果等を踏まえ、衛星バスを標準化した汎用バスシステムを開発し、衛星開発期間の短縮とコスト削減を目指している。従来、設計開始から打上まで最低2~3年かかっていたものを、最短1年での打上を目指している。
汎用バスは25年6月に打上げた実証衛星「GRUS(グルース)-3α」で検証を行っており、今後開発される衛星に適用される予定である。
汎用バスシステムの開発に加え、事業設計から仕様決定、製造状況把握、軌道上運用に至るプロジェクトの全てのフェーズにおいて、顧客とのやり取りを行うソフトウェアのAxelLiner Terminalの開発も進めている。AxelLinerTerminalでは、顧客がシンプルな項目を入力するだけで、顧客のミッションを明確化し、ミッション実行に必要な人工衛星構成やコスト、スケジュール等が把握できる環境の提供を目指している。
汎用バスシステムとAxelLiner Terminalを活用した新たなサービスとして、AxelLiner Laboratory(以下、AL Lab)とAxelLiner Professional(以下、ALPro)の2つのサービスを準備している。
AL Labは、衛星で使用される機器(コンポーネント)の宇宙空間での実証試験を行いたい企業に対して、コンポーネントを同社の衛星に載せて打上げて、軌道上での実証試験の機会を提供するものである。宇宙産業への参入を目指す企業の増加が予想される中で、迅速な実証試験の機会に対する需要は今後高まると同社は見ている。
AL Proは、顧客が実現したいミッションに対して衛星コンステレーションを含む衛星の開発から運用までを支援するサービスである。
◆ AxelGlobe事業
AxelGlobe事業は、19年5月に開始された事業で、18年12月に打上げられたGRUS-1A機、及び21年3月に打上げられたGRUS-1B、C、D、Eの合計5機による光学地球観測衛星コンステレーションにより、取得した画像データ及び画像データを加工・分析したソリューションを提供している。
GRUS-1は重量100kg級の小型光学衛星で、衛星高度585kmの地球低軌道を運行する地上分解能注22.5mの中分解能衛星であり、撮影幅55km、撮影長は最大約1,000kmとなっている。衛星コンステレーションにより同一地点を2~3日に1回撮影できる。
提供する画像は、顧客の要望があった場所を撮影するタスキングが基本となっている。主な用途としては、農業での作物の生育状況の解析、インフラのモニタリング、環境モニタリング、報道、安全保障、地球軌道上からの他の物体の状況把握、地図の作成等がある。同社の衛星は、撮影範囲の広さから、国土の管理や農林水産業分野に強みを持っている。販売は同社の直販のほか、国内外の50社以上の代理店を通じて行っている。

コラム&レポート Pick Up
相場見通し


投資アイディア


プロの見方

