政策保有株への対応策
・政策保有株(株式の持ち合い)は、ここ10年減少傾向にある。その意味が問われて、金融機関や事業会社が持ち合いを止めてきていることによる。これからも減少は続こう。その意味では、機関投資家が望んできたことを、金融庁の政策が後押し、これが効いてきた。
・そもそも株式の持ち合いとは何だったのか。本業とはどういう関係があったのか。株式を持って、儲かっていたのか。一種の保険的な役割が役立ったのか。持ち合いを止めてみたら、何か実害はあったのか。
・企業の経営のやり方には、その時代の流行がある。社会や制度を前提として、苦労せずにうまく立ち回りたいという動機が働く。株を持っても、経済が右肩上がりなら、長い目でみると株は含み益を貯めてくる。もし自社が苦しくなった時には、売却によって特別利益が出せる。でも、持ち合いとなると、こちらの都合だけで売るわけにはいかない。
・株主総会を恙なく乗り切るには、無言で賛成してくれる安定株主が必要である。事業で特につながりがなくても、少額の範囲で持ち合って、その株主数を増やしておけば、安心していられる。
・変な株主や真面すぎる株主に文句をつけられても面倒である。時代に合った順当な経営をしていれば、それで十分であって、余計な文句をつけられたくない、という経営陣が多かった現れであろうか。
・内外の投資家がうるさくなり、金融当局は株式保有の意義や是非を問うてきた。開示要求の中身が具体化し、説明責任も求められた。そこで、持ち合い株を減らしてみた。多くの企業では、特に問題は起きていない。
・金融機関は、株を持つことで取引を有利に進めることができる。事業会社に文句を言うわけではないが、目を光らせながら、自社の金融取引に当たって、何らかの圧力になると考えてきた。実際そういう面はあった。
・事業会社はどうか。海外の企業、国内の他の企業から、企業買収を仕掛けられた時に、どうやって自社を守るか。安定株主が多ければ、買収は仕掛けにくいし、仕掛られても多数をとりやすい。
・では、企業経営に何が欠けていたのか。最大の買収防衛策は健全な経営で、企業価値創造に邁進していることである。それがPBR=ROE×PERにおいて、妥当な評価を得られているならば、不当なM&Aは仕掛けられない。
・経営の怠慢から、いかにも割安な状況が続くならば、それはアクティビストに仕掛けられる可能性が高まろう。経営の怠慢を早急に正す必要がある。1)自社の価値創造が十分知られていないとすれば、それをアピールする必要がある。2)価値創造に向けた戦略が不十分であれば、そのリソースを手に入れる必要がある。
・3)自前のリソースで不十分ならば、外部との資本業務提携を積極的に考えるべきであろう。4)自らの経営力では手に負えないならば、経営陣は交替すべきであろう。つまり、昔のような生温い経営で、執行サイドのトップは務まらない。
・自社はしっかりした経営を行っていても、TOBを仕掛けられることがある。つまり、先方から見た時、もっと大胆な連携をとると、両社を大発展させることができると見える時は、一見割高と思えるところまで買収資金を投入してくる。
・これにどう対抗するか。手に負えないとすれば、資本市場に策を求めながら、市場の判断に委ねざるをえないことも起こりうる。それは上場企業の宿命である。
・とすると、持ち合い株であっても、1)その株を所有している理由は何か。わが社の企業価値創造に中長期的に役立つのか。2)その株を処分するとどんなデメリットがあるのか。具体的なフリクションは何かも問うてみる。3)株式を売却して現金化した時に、その資金はどのように活用するのか。株主にきちんと説明する必要がある。
・有力な取引先であり、これからのビジネス拡大に資本業務提携が意味を持つとすれば、それを説明すればよい。有報にしっかり記載している企業もある。
・時間をかけて減らしている企業もある。持ち合いを減らすには、株を売却する必要があり、先方の了解を得ることが礼儀として望ましいと考える。金融機関を通して、マーケットにインパクトのないように機械的に売却してしまえばよいようにも思えるが、そこは慎重に進める企業が多い。
・政策投資でない、純投資である、と説明する企業もある。余剰資金を株式に純投資する。これはありである。実際、光通信は株式投資を第2の本業として実践している。バフェットのような会社を目指しているともいえる。しかし、政策投資を純投資として説明するだけなら、それは本当だろうか。
・純投資であるならば、投資有価証券を営業投資有価証券と位置付けて時価評価し、B/S、P/Lに反映すべきである。投資家にとっては、その方が分かり易い。
・時価評価の変動をP/Lに反映するのは望ましくないという立場をとるならば、短期の変動を見据えながらも、中長期の価値を考慮していくという説明がほしい。ここが十分できなければ本物の純投資家とはいえない。
・会社は誰のものか、会社は誰のために存在するのか。両者の意味合いは異なる。会社は会社法上でいえば、株主のものである。今の経営陣のものではない。株主は多様で、大株主、機関投資家(国内、海外)、個人投資家などの株式数に依存する。
・会社の存在意義を問われれば、会社の事業活動は、世のため、人のため、ステークホールダーへの貢献を通して、価値創造を行っている。ここは分けて考える必要がある。
・株式の持ち合いは、古い仕組みのしがらみである。見直されて、問題にされなくなる局面にあろう。新しい経営を担うガバナンスを作って、それを実践した方が勝ちである。買収守衛に汲々としている企業は、いずれ市場から退場を余儀なくされよう。政策保有株には引き続き着目していきたい。
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