イノベーションとリスク

2024/02/13

・ポストマンのCEOアビフナ・アシュタナ氏は、APIのソフト開発でインドから米国に渡り、急成長をみせている未上場ユニコーンの1社である。API(Application Programming Interface)は、ソフトウェア、プログラム、webサービスをつなぐソフトウェアである。

・2012年にサイドビジネスとしてスタートし、2014年に会社を設立した。APIはソフトをつなぐ。ポストマンを使うと、APIを早く効率的に作れる。従来は個別につなぐため手間がかかったが、これをスピーディに簡単に作成できる。

・すでに3000万人近いユーザーがいる。APIのソフト開発者に依存するのではなく、各々のソフト開発者が自分でAPIを作ることができる。ナレッジワーカーなら誰でもできるようにもっていくという流れである。

・APIはいろいろなインターフェースをつないでいく。クラウド、スマホ、AIをAPIでつなぐ。コーディングをやったことのない人が、自分でソフトを作れるようになる。APIの開発が手間なので、簡単にできるシステムを開発した。これを発売したら、大ヒットした。

・スタートアップに当たっては、1)まず役立つかを追求する。2)次に、いい時もわるい時も、当初の確固たる信念を貫く、3)先がみえず、時間がかかることを覚悟する。3人で会社をスタートしたが、やる気はキープできた、とアシュタナ氏は語る。現在は20カ国で700人が働いている。

・リーダーシップのあり方として、1)好奇心の中から文化的価値を求め、2)真の解決策を追求し、3)制約のある中で、チームとして大きくなることを目指すべし、という。その上で、ユニコーンになりたいなら、①最初からグローバル化を考えて、②失敗恐れずに挑戦し、③常に長期的な視野を持つこと、を強調した。

・中国のバッテリーメーカー CATLの潘健董事(チャンパン取締役)は、今後のバッテリーテックに関する戦略を語った。CATLは2011年設立で、EV用バッテリーであっという間にグローバルリーダーの1社となった。世界シェアの36%をとっている。

・バッテリー(BT)は、1)再生エネルギーにとって重要であり、2)EV用から船舶などに広がり、3)BT自体が技術的に多様化していく。脱炭素(CN)にとっても欠くことのできない製品である。BTは、エネルギー貯蔵に必須である。

・BTのコストは年々下がっており、チャージ時間も大幅に短くなっている。エネルギー密度は、この10年で180mhr/gから300mhr/gに上がっており、次の5年で500mhr/g以上に高まるとみられる。用途によっては、300~500mhr/gで十分という領域も多い。

・さまざまなBTの開発が進んでいる。レアメタルを使わない方向が基本である。1)全固体電池、2)リチウムからナトリウムイオンへのシフト、3)M3P、4)コンデンストバッテリーなど、将来への開発競争は活発である。いずれ航空機もBTで飛ぶようになるだろう。

・BTの充電効率も高まっている。短時間で充電して、長時間保つなら実用性は一段と高まろう。こうした開発においても、CATLは世界をリードしようといている。国内需要が大きいので、製品開発と市場開拓のサイクルをうまくまわすことができる。そうしたBT企業とどのように対峙していくのか。企業間競争は容易でない。

・メキシコのベンチャー企業が、サボテンを使ってレザーを開発した。植物原料の合成レザー(ビーガンレザー)である。ファッションのサステナビリティにおいて、アニマルフリーは重要なテーマである。動物由来の原料を使わずに、植物系の素材を利用しようという動きの1つである。

・アドリアーノ・ディ・マルティ社は、二人の創業者がCEOとなっている。社名も二人の名前に由来する。もともと、ファッションや自動車の革に関わっていたが、環境に配慮した素材に目を向けるうちに、サボテンに注目した。

・配合を工夫していくと利用可能性が高まった。サボテンの繊維を利用する。水分が少ない中で育つので、繊維も強い。サボテンは量産が可能なので、スケールを追いかけることもできる。今は、用途開発(ハンドバックなど)をしながら、ビーガンレザーの認知度を高め、ブランド化を図ろうとしている。

・二人は台湾で出会って、メキシコで生産し、イタリアで商品化を進めている、一定の需要があり、アジアに輸出している。素材開発がカギで、いかに高級感を出していくか。手触りと長持ちを求めている。企業は急成長を開始している。

・サントリーホールディングスの新浪社長は、ゲームチェンジャーのテクノのジーについて、常に目を光らせている。実際、ChatGPTについて、20代~30代のエバンジェリスト(ITの専門伝道師)に活用モデルを考えてもらうと同時に、50代にも全員に研修を受けさせている。

・50代のもっているノウハウを、質問力を通して、AIに蓄積していく。インターフェースは簡単なので、50代でも使いこなせる。これによって、アナログのナレッジをデジタルに変えていく。

・日本の75歳は世界でみれば65歳、日本は75歳まで働くことが十分できる、と新浪社長はみている。10年若いのだから、将来があると思って働いてもらうことが大事である。

・経営トップのリーダーは、技術をどう磨いていくのか。CEOは興味を持って自ら動き、理解を深めて、活かすことを実行していく。CVC、大学、アドバイザーはCEOが接点となって、ネットワークを広げていく。

・サントリーは4割の社員が中途入社である。多様な人材がレーダーとして新しい動きを監視していく。技術へのアクセス、その投資には金がかかる。よって、粗利率を上げて稼ぐ必要がある。ビジネスのマージンを高めることが必須である。

・とりわけ、環境を中心とするサステナビリティには、新しい技術が出てくる。一方で、新しい技術を取り入れても、すぐに陳腐化するリスクもある。ペットボトルのリサイクルを、いかにサーキュラーエコノミーにもっていくか。木材由来の材料にかえて、2030年には石油由来をやめる方針である。

・NFTやメタバースも、響や山崎という商品を超えて、顧客によい時間を提供するという視点からみていくという。新しいウィスキーがChatGPTですぐにできるかもしれない。新規参入は、異業種からも入ってくるかもしれない。これにたえず備えておくことが大事であると強調した。

・世界的にみたリスクは、人権のリスクにあると新浪氏は語る。地政学的リスクが台湾に波及した時、台湾の社員、上海の社員はどうするのか。もっとネットワークを広げて、プランAではない、プランBを作っておく必要がある。

・中国で一度は撤退したビールをもう一度やってみたいという。つまり、民間の関係でつながりを広げていくことを重視している。それでも、反スパイ法は脅威であると懸念する。

・米国、アセアン、インドとはインサイダー化してつき合っていく。トップクラスのインサイドに入って情報をとり、リスクをみていく。東京にいると重要情報の入手が十分でないという。

・日本のCEOが4~6年で交替するのは短い。10年間、CEOがやれるくらいの人材が求められる。まずは給料を上げて、いい人材を取り、その人材を活かして生産性を上げていく。粗利率を高めて、もっと稼ぐ仕組みを強化する。、日本でも人材は流動化していく。“いい人取り”の経営が問われよう。

・日本の収益性は低い。サントリーも世界で儲けるだけでなく、日本でもっと利益をあげるべし、と強調した。そのための施策はいかなるものか。テクノロジーを活かした次のビジネスモデルに注目したい。

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