アクティビストになったつもりで
・アクティビストにいかに対応するか。この言い方だと、会社側の立場に立って、いかにアクティビストを撃退するか、という方策について考えることになる。そうではなく、投資家の立場で、アクティビストになったつもりで、会社にもっと強い要求をするとすれば、それは何であろうか。
・株主としては、株価をもっと上げてほしい。そのために、企業業績を向上してほしい。もっとB/Sを使って、資本効率を高めてほしい。P/Lでは利益率を大幅に高めてほしい。C/Fでは、フリー・キャッシュフローをもっと稼いでほしい。
・それを中長期に続けてほしい。他のステークホールダーを犠牲にして、株主のためだけに働いてほしいといっているわけではない。世のため、人のために商品やサービスを提供して、顧客、取引先、社員、地域社会の人々のウェルフェア(幸福)に大いに貢献してほしいのである。
・企業の価値創造力を高めるには、古い仕組みを壊して、新しい仕組みを作っていく必要がある。ここで企業の対応が分かれる。1つ目は、今の仕組みを温存して、波風が立たない範囲で新しいことをやろうとする。万が一失敗しても、会社への影響が少ないように、自分に責任が及ばないように小さくやろうとする。
・2つ目は、どうやればよいかは分かっているので、思い切った手を打っていく。ところが打つ手が腹に入っているのは経営トップの自分だけであって、社員の共感が得られていない。これではワンマンリーダーの暴走になりかねない。社内ではやったふりが増えてきても、実際の効果は上がってこない。
・3つ目は、ベストの方策ではないが、多くの社員が納得できる方向へ舵を切って、団結力を重視していく。社内はまとまっていくが、競合や市場の変化に追いつかず、じりじりと離されていく。
・セブン&アイ・ホールディングスのケースを考えてみよう。セブン&アイはなぜ行き詰っているとみられたのであろうか。かつての勢いが衰えてきた時に、どうすればよかったのであろうか。
・GMSのイトーヨーカドーの業績が冴えない。食品スーパーで元気のよい企業は、上場企業に限らずいくつもある。百貨店に対抗するGMSの一時代はあったが、その次への展開で行き詰った。儲からない事業になってしまったが、地域の地元ではコアなショッピングセンターとして、生活に役立っているのだから、事業を続けることが社会的使命であるともいえる。
・伊藤家の創業事業であるから、やめるわけにはいかない。本当に意義があるのだろうか。単にしがらみに捕らわれているだけではないか。ダイエーはとっくになくなってしまったが、別に誰も困っていない。市場があれば、誰かが必ずうめてくる。
・コンビニのセブンイレブンは、国内で30年以上輝いてきた。ここ10年は勢いが鈍くなってきたが、ローソンやファミマよりも未だに一歩抜きんでている、コンビニは成熟してきたが、もう国内では伸びないという見方は本当だろうか。
・米国のセブンイレブンを逆買収して、経営再建を果たしたことは素晴らしい。日本のコンビニは独自の創意工夫で発展をとげてきたので、表面的には米国のコンビニとは大きく違っていた。
・そこに日本で培ったビジネス方式を導入して、米国のセブンイレブンを再建した。サウスランドを日本のセブン-イレブン・ジャパンが買収し、その米国のセブンイレブンは2020年にスピードウェイ(ガソリンスタンド併設のコンビニ)を買収した。
・セブンイレブンはアジアにも展開している。日本からみると世界のマーケットに進出して日本型コンビニをベースに、成長領域を広げようとしている。それでもアクティビストからみると、経営が甘いとみられた。さらに、カナダのアリマンタシオン・クシュタールから敵対的買収を仕掛けられた。その後の経営陣の対応は今1つ煮え切らなかった。
・アクティビストは経営の隙をついてくる。合理的な手を打つことを、何らかの内部事情で怠っていると、一定の株主をなって、会社がとりにくい経営戦略を遂行すべしと迫ってくる。
・もしそれが無理筋の要求であれば、株主総会で戦えばよい。もっと本質的な要求である場合はどうするか。コーポレートガバナンスの改革、経営戦略の抜本的な変更、大幅なコストカットや新規事業の見直し、キャピタルアロケーションの変更、事業ポートフォリオの再編など、さまざまな場面が想定される。
・アクティビストからの要求が理にかなっていることもある。それが現経営陣にはできない場合、当然経営者は交替する必要がある。まずは、感情的な対立として表面化して、判断に感情が入りがちである。敵対的買収は、経営陣にとって不愉快かもしれないが、株主にとってはよいことかもしれない。中長期的企業価値を上げてくれるならありがたい。しかし、その企業の余剰資本をつまみぐいして消滅させてしまうなら、目先のハゲタカにすぎない。
・同業他社がアクティビストになることもある。敵対的買収は、誰がどのように判断するのか。取締役会は本当に判断できるか。独立の第三者委員会は機能するのか。戦略アドバイザーとともに、どのようなストーリーを作るのか。
・アクティビストに狙われないようにするにはどうしたらよいか。彼らが目をつけてきそうな経営の論点には、内部で十分議論して、手を打っておく必要がある。中長期の価値創造について株主に説明して、それをフルに実践していれば、アクティビストの出番はなくなる。
・投資家としては、アクティビストが対象としにくい、よい会社に投資したいと思う一方、アクティビストに狙われるような会社への投資妙味も捨てがたい。
・セブン&アイの経営には甘さがあった。次のリーダーが十分育てられないガバナンスの難しさが露呈した。本来のあるべきガバナンスからも遠い。セブンイレブンの行方に注目したい。
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