修正ROEのすすめ

2012/11/17

・投資家はROE(自己資本利益率)を重視する。25年ほど前には、ほとんどの投資家は気にしていなかったが、今では誰もが注目している。ところが、その数値の示す意味については必ずしも身についていない。理屈は分かっていても肌感覚として十分納得できていないのかもしれない。

・私は常に、‘ROE 8% を確保してほしい’と経営者に言っている。なぜ8% なのか。現在の長期金利からみれば、リスクプレミスムを4%として、ROEは5%もあれば、投資家の株式資本コスト(期待収益率)を満たしているのではないか、という意見もある。

・確かに、株式投資をして年5%のリターンを見込めるのであれば、悪くはないが、もう少し高い方が望ましい。しかし、10%以上のリターンを求めるというのは高すぎる。そこで、標準的な水準として、長期金利1~2%+リスクプレミアム6~7%として、8% を要求したい。

・例えば、A社の今期予想ROEが8.0%で、PBR(株価純資産倍率)が前期実績の純資産をベースに1.0倍であったとする。この時、ROE 8% がほしいという私の要求には合っている。今期予想ROEが将来とも続くか、もっと上がるか、下がるかはよく検討する必要があるという条件付きである。

・次に、B 社の今期予想ROEが30.0%で、PBRはすでに4.0倍になっていたとする。ここで、この株を買おうという投資家は、どういう判断をするのであろうか。

ROE  = 1株当り利益 / 1株当り純資産
=( 1株当り利益 / 株価 )×(株価 / 1株当り純資産)
= 修正ROE×PBR

という関係から、時価ベースでみた修正ROEは、この場合30.0%÷4.0=7.5%となる。

・つまり、私の要求するROE 8.0% は、今からその株を買う投資家にとってのリターンであるから、時価ベースの修正ROEの方が妥当である。ということは、B社の修正ROE 7.5% は、8.0%を下回っているので、私にとって、この株価は必ずしも割安とはいえない可能性が高い。

・次に、C社のROEが4.0%、PBRは0.4倍であったとする。とすると、修正ROEは4.0%÷0.4=10.0% となる。修正ROEは10%に相当するので、もし簿価ベースのROE 4.0% がこれ以上下がらないのであれば、割安かもしれない。

・では、この修正ROEとは何か。

PER=株価 / 今期予想EPS

であるから、

修正ROE=今期予想EPS / 株価 = 1 / PER = 益利回り

となる。即ち、修正ROEとは益利回りのことである。

・8% を基準とすると、その時のPERは1/0.08=12.5倍である。PERが12.5倍以下であれば割安、12.5倍以上なら割高の可能性が高いということを意味する。

・いずれにしても、将来の利益見直しが鍵を握っている。将来の利益が伸びるなら、割安の可能性は高まるし、もし利益がダウンするなら割高になってしまう。将来見直しの適、不適がポイントであるという点では目新しくもない。

・しかし、経営者にとって、益利回り(PERの逆数)といわれてもピンとこないが、株価をベースにした修正ROEが、投資家のリターンと直接結びついているといわれれば、分かり易いのではないだろうか。

・米国の代表企業のROEは19.9%である(注)。その時のPBRが2.99倍であるから、修正R0Eは6.7%である。日本の代表企業のROEが5.8%で、PBRが1.03倍であるから、修正ROEは5.6% である。また、日本の魅力ある企業のROEが13.2%で、PBRは2.35倍であるので、修正ROEは5.6%である。いずれも8% を下回っている。

・違いは将来見通しにかかっている。PBRが低いということは、将来の成長性が低いという現れでもあるので、この場合、日本の代表企業の方が‘分が悪い’。日本企業の経営者は、自社の修正ROEを頭に入れた上で、経営者として将来展望を描き、投資家にそれを語ってほしい。そうすれば、投資家も聞く耳をもつであろう。その意味で、修正ROEの活用をぜひすすめたい。

(注)(参考文献)川北英隆、「企業は株主の期待に応えよ」、日経、経済教室、2012年10月29日。

株式会社日本ベル投資研究所
日本ベル投資研究所   株式会社日本ベル投資研究所
日本ベル投資研究所は「リスクマネジメントのできる投資家と企業家の創発」を目指して活動しています。足で稼いだ情報を一工夫して、皆様にお届けします。
本情報は投資家の参考情報の提供を目的として、株式会社日本ベル投資研究所が独自の視点から書いており、投資の推奨、勧誘、助言を与えるものではありません。また、情報の正確性を保証するものでもありません。株式会社日本ベル投資研究所は、利用者が本情報を用いて行う投資判断の一切について責任を負うものではありません。

このページのトップへ