ペルセウスプロテオミクス<4882> 真性多血症治療薬PPMX-T003の自社治験で早期開発と高付加価値化を目指す

2021/06/30

高度な抗体作製技術によりがん治療薬を中心とする抗体医薬品を開発
真性多血症治療薬PPMX-T003の自社治験で早期開発と高付加価値化を目指す

業種: 医薬品
アナリスト: 鎌田 良彦

◆ 高度な抗体作製技術によりがん治療薬を中心に抗体医薬品を開発
ペルセウスプロテオミクス(以下、同社)は、東京大学先端科学技術研究センター・システム生物医学ラボラトリー(以下、LSBM)で開発された蛋白質発現・抗体作製技術を基盤として抗体の医療への活用を目指して設立され、がんを中心とした抗体医薬品の研究開発、関連業務を行っている。

抗体は、抗原(免疫反応を示す物質)に1対1の関係で特異的に結合する蛋白質であり、この抗体の特異的性質を利用してがんや感染症等の疾患を診断・治療する医薬品に応用される。抗体医薬品は疾患をもたらす抗原をピンポイントで狙い撃ちするため、高い治療効果と副作用の軽減が期待できる。

同社は、がん細胞等の表面に現れる標的物質等の探索・解析と、それに特異性を持って結合する抗体の作製、スクリーニング技術に強みを持っている。

◆ 事業モデル
同社の事業セグメントは医薬品事業のみの単一セグメントであるが、以下の3つの業務を行っている。

①創薬
同社の持つ標的探索技術、抗体作製技術を用いて高機能抗体を取得し、必要に応じて遺伝子工学的な改変または化学的な修飾を行うことにより、抗体に他の製剤等を結合した抗体薬物複合体(ADC、別名Armed抗体)等の医薬品候補の研究開発を行っている。

創薬の収益モデルは、同社が開発した医薬品候補品を国内外の製薬企業に対して導出注1することによる契約一時金収入、開発の進捗に応じて支払われるマイルストーン収入、医薬品として承認・市販後に売上高の一定割合が支払われるロイヤリティ収入等を獲得するものである。

② 抗体研究支援
同社は、アカデミアや製薬企業向けに抗体作製、研究受託、配列解析等の抗体研究支援業務を行っている。

③ 抗体/試薬販売
同社では、がん等の各種疾患のバイオマーカーとなる核内受容体抗体を、国内外の研究者に研究用試薬として販売している。ヒトには48種類の核内受容体があるが、それらに対する全ての核内受容体抗体を取り揃えている。また、血管炎症の程度を反映する指標となる蛋白質PTX3の濃度を高感度に測定できるPTX3 ELISAキットを研究用試薬として販売している。

◆ 開発パイプライン
同社は現在、以下の4つの開発パイプラインを有している(図表1)。

①PPMX-T002
がん細胞表面に存在するカドヘリン3(CDH3)を標的とする抗体医薬品である。同製品は、抗体に放射性同位体を結合したArmed抗体を用いた抗がん剤で、肺がん、膵臓がん、大腸がん、卵巣がん等の固形がんを治療対象としている。

作用メカニズムとしては、同医薬品をがん細胞に集積させ、抗体に結合した放射性同位体から放出する放射線で直接がん細胞を攻撃するため、従来の放射線療法等に比べて副作用等の患者の負担が少ない。また、抗体ががん細胞表面上の蛋白質に結合し、生体が持つ免疫機能を誘引して標的細胞を攻撃する通常の抗体医薬品と異なり、免疫機能が低下した患者でも効果が得られるメリットがある。

11 年1 月に富士フイルムに導出された。富士フイルムが16 年より米国で進行性固形がん患者に対する第Ⅰ相試験を開始し、PPMX-T002 の抗体ががん組織に集積すること、一部症例で腫瘍の縮小が確認された。米国では19 年より容量、症例数を増やして、安全性、薬物動態を確認する拡大第Ⅰ相試験(日本の厚生労働省基準の第Ⅱ相試験相当)を実施中である。国内では20 年4 月に固形がん患者を対象に安全性、薬物動態を確認する第Ⅰ相試験が開始された。

② PPMX-T003
がん細胞は増殖するために鉄が必要で、鉄を結合したトランスフェリン(Tf)を細胞内に取り込むためのトランスフェリン受容体(TfR)が多く存在する。PPMX-T003 は、このTfR と結合することにより、がん細胞がTf を取り込むことを阻害し、がん細胞の死滅や増殖抑制を図る治療薬である。

PPMX-T003 はTf に比べてTfR に対する結合が100 倍以上強く、既存の抗体との比較でもTf とTfR の結合阻害率で高い数値を示した。

PPMX-T003 は、現在、真性多血症治療薬として同社単独で国内で第Ⅰ 相試験を実施中である。真性多血症は赤血球が通常より多い疾患で、血栓が生成される問題がある。国内に約3 万人の患者がいると推定されている。真性多血症の従来の治療法には、過剰になった赤血球を抜く瀉血しゃけつ、または抗がん剤等の薬物療法がある。瀉血治療の問題は鉄欠乏症による貧血、脱力感、うつ等の諸症状、抗がん剤治療では造血幹細胞全体に影響し、副作用が大きいという問題があった。これに対し、PPMX-T003 は過剰になった赤血球のみに作用するため副作用が少ない利点がある。

PPMX-T003 は急性骨髄性白血病、悪性リンパ腫等の血液がん及び固形がんの治療薬としても期待される。現在、これらの疾患に対する作用メカニズムを明確化するため、同社は名古屋大学、藤田医科大学、群馬大学等と共同で臨床効果に関する創薬研究を進めている。

③ PPMX-T004
PPMX-T004は、PPMX-T002と同様に、がん細胞表面に多く発現するCDH3を標的とするが、抗体に薬物を結合した抗体薬剤複合体であり、結合した薬物ががん細胞を殺傷する。放射線免疫療法としてのPPMX-T002と異なり、施設を選ばないという利点がある。

PPMX-T004は、15年9月に富士フイルムに導出されたが、富士フイルムとの契約により開発状況は開示されていない。

④ PPMX-T001
PPMX-T001は、肝臓がんで特異的に発現が高い蛋白質のグリピカン3(GPC3)を標的とする抗体医薬品である。06年9月に中外製薬(4519東証一部)に導出され、中外製薬が肝臓がん等治療薬として、GC33及びERY974という2種類の異なった形態での薬剤開発を進めている。

GC33の単剤は第Ⅰ相試験で患者での有効性が確認されたが、第Ⅱ相試験では主要評価項目が未達となり、現在、試験は実施されていない。一方、免疫療法薬のアテゾリズマブとの併用で第Ⅰ相試験を行い、患者での有効性が確認されたことが学会発表されている。

ERY974(抗GP3-抗CD3)は、2つの標的に同時に結合できるバイスペシフィック抗体で、米国・欧州での第Ⅰ相試験が19年8月に完了し、国内での第Ⅰ相試験を実施中である。

一般社団法人 証券リサーチセンター
ホリスティック企業レポート   一般社団法人 証券リサーチセンター
資本市場のエンジンである新興市場の企業情報の拡充を目的に、アナリスト・カバーが少なく、適正に評価されていない上場企業に対して、中立的な視点での調査・分析を通じ、作成されたレポートです。

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