QDレーザ<6613> 開発投資で赤字続くが、網膜投影技術を用いたアイウェア製品が今後の成長軸

2021/02/24

富士通研究所からスピンオフした半導体レーザ分野の技術ベンチャー
開発投資で赤字続くが、網膜投影技術を用いたアイウェア製品が今後の成長軸

業種: 電気機器
アナリスト: 藤野 敬太

◆ 半導体レーザで高い技術を有する技術ベンチャー
QDレーザ(以下、同社)は、06年に富士通研究所のスピンオフベンチャーとしてスタートし、レーザ注1技術を用いた製品の開発・製造・販売を行っている。レーザは共振器を用いて電磁波を増幅して人工的な光を出す原理またはその原理で出される光である。レーザ光を放出する媒体によっていくつかの種類に分類されるが、同社は半導体レーザを事業領域としている。

同社の事業は、半導体レーザ製品の製造・販売を行うレーザデバイス事業と、世界初の網膜投影技術を活用したアイウェア製品の展開を行うレーザアイウェア事業の2つの報告セグメントに分類されている(図表1)。16/3期から医療用機器としてのアイウェア製品への開発投資が続き、レーザアイウェア事業のセグメント損失が続いている。そのため、同社全体でも営業損失が続いている。

◆ 6つのコア技術
同社は、事業領域である半導体レーザに関連する6つのコア技術を有している(図表2)。同社が世界初のものや、同社が唯一保有しているものもあり、技術優位性の礎となっている。

◆ レーザデバイス事業
レーザデバイス事業は、(1)半導体レーザ製品の製造・販売、(2)研究機関から受託する基礎技術の研究開発やメーカーの新規アプリケーションの光源開発を行う開発受託業務で構成されている。売上高の多くは、半導体レーザ製品の製造・販売によるものである。

一般的に、半導体レーザには、加工、センシング、通信、ディスプレイという4つの応用分野があると言われている。同社はディスプレイ以外の分野での製品を販売しており、(1)センサ用の小型可視レーザ・高出力レーザ、(2)材料加工用またはセンサ用のDFBレーザ注2、(3)通信用の量子レーザの3つが中心的な製品である。中でも量子レーザは、データ需要の増加に伴う消費電力の増加という世界的な課題に対する解決策に必要なシリコンフォトニクス注3需要に対応するものであり、中長期的な高成長が期待される。

半導体レーザ製品の製造プロセスは、半導体ウェハをつくる前工程と、その半導体ウェハを用いて半導体レーザチップ作製及びモジュール実装を行う後工程に分けられる。同社は、技術的な要である半導体結晶成長を含む前工程は自社で行い、後工程では協力会社に製造委託するという水平分業体制によるファブレス製造を行っている。

◆ レーザアイウェア事業
レーザアイウェア事業は、これまで培ってきた半導体レーザの技術をベースとしたレーザ網膜投影技術を使ったメガネ型ディスプレイ(網膜走査型レーザアイウェア)の製品開発と製造を行う事業である。

網膜走査型レーザアイウェアは、メガネ型フレームに内蔵された超小型レーザプロジェクタから網膜に直接映像を投影することで、画像やデジタル情報を見せることができる製品である。装着した人の視力やピント調整能力を必要とせずに見ることができるため、ロービジョン注4や一部の社会的失明者注5に対する視覚支援機器として用いられる。

製品には、民生用機器「Vシリーズ」と医療用機器「Rシリーズ」の2つの系統がある。「Vシリーズ」は、18年7月に「RETISSA® Display」として販売が始まり、19年12月には「RETISSA® Display Ⅱ」が販売開始となった。

網膜にレーザ光を当てる関係上、「Rシリーズ」は、医療用機器としての承認が必要となる。日本では20年1月に医療機器製造販売承認を取得済みであり、欧州でも19年10月に治験が終了し、現在は承認待ちである。

製造はレーザデバイス事業と同様、ファブレスでの製造となる。製造委託先はミネベアミツミ(6479東証一部)やオーディオテクニカ(東京都町田市)等である。レーザデバイス事業と異なるのは、前工程でつくられる半導体ウェハは汎用品に近いものなので、前工程も自社では行っていない(協力会社が他社から調達する)点である。そのため、製造プロセスにおいて同社は開発・設計に特化できている。

販売は、民生用機器については、法人顧客に対しては同社が直接販売し、個人顧客に対しては販売パートナー(販売代理店)経由での販売となる。販売パートナーとしては、シード(7743東証一部)、東京メガネ(東京都世田谷区)、カシオ計算機(6952東証一部)、加賀FEI(旧富士通エレクトロニクス、神奈川県横浜市)等がある。また、医療用機器としては、参天製薬(4536東証一部)と販売支援の契約を締結している。

一般社団法人 証券リサーチセンター
ホリスティック企業レポート   一般社団法人 証券リサーチセンター
資本市場のエンジンである新興市場の企業情報の拡充を目的に、アナリスト・カバーが少なく、適正に評価されていない上場企業に対して、中立的な視点での調査・分析を通じ、作成されたレポートです。

このページのトップへ