不動産も株と同様に暴落が更なる暴落を招く可能性-客員エコノミスト ~塚崎公義 教授 –

2020/04/13

■株価には、暴落が更なる暴落を招くメカニズムあり
■不動産価格が暴落すると銀行が不動産融資に慎重化
■銀行の赤字が自己資本比率規制による貸し渋りを招く
■価格下落時は買い控えが発生
■米国では住宅ローンの担保処分が激増

(本文)本稿は、金融危機に関するシリーズの第6回である。金融危機に関する全体像については第1回の拙稿「金融危機は繰り返す」をご参照いただきたい。
詳しくは https://column.ifis.co.jp/toshicolumn/tiw-tsukasaki/118769を御参照いただければ幸いである。
なお、本シリーズはリスクシナリオであり、筆者の予測ではない。過度な懸念を持たずに、落ち着いてお読みいただければ幸いである。

■株価には、暴落が更なる暴落を招くメカニズムあり
株価が暴落すると、株価がさらに値下がりするメカニズムが働きかねない。一つには、借金で株を買っている人に対して、不安になった銀行から返済要請が来るので、泣く泣く持っている株を売って返済する必要があるからだ。

一つには、株価がさらに下がるかも知れないと考えた投資家が、買い注文を出さずに値下がりを待つ「買い控え」をするから、という事も言える。つまり、株価が下がると供給が増えて需要が減り、株価を押し下げるというわけだ。

それ以外にも様々な力が株価を押し下げる方向に働き得るが、詳しくは拙稿https://column.ifis.co.jp/toshicolumn/tiw-tsukasaki/118077を御参照いただければ幸いである。

■不動産価格が暴落すると銀行が不動産融資に慎重化
不動産を購入する際には、株式投資と比べると長期の負債が多いはずなので、銀行に返済を迫られる(返済期日に借り換えを拒絶される)事は少ないだろう。
しかし、銀行が担保不動産の値下がりリスクを意識して不動産融資に慎重になる可能性は十分にある。それにより新規の購入が減れば、不動産の需給が悪化して価格が下落する事は十分に考えられる。

不動産の購入は、株式と異なり、現金で購入する人は少ないだろう。多くの場合が借金によるだろうから、銀行が融資に慎重化すれば、需要は激減するはずだ。

ちなみに不動産の場合、買い替えも多いだろうが、買い替えは売りと買いが同時に出るので需給に影響しないはずだ。

■銀行の赤字が自己資本比率規制による貸し渋りを招く
不動産価格が暴落しただけでは、直ちに倒産が増えて銀行が赤字になるわけではない。自宅所有者は勤務先からの収入で住宅ローンを返済し続けるだろうし、賃貸マンションのオーナーは家賃収入で借金を返済し続けるだろう。商業地の地価が暴落しても、そこでビジネスを行なっている人はビジネスからの収入で借金を返済するだろう。

しかし、不動産価格暴落の原因が不況であったならば、あるいは因果関係はともかく不動産価格暴落と不況が並存する場合には、収入が減少して借金が返せない人や企業が増加するため、銀行は苦しい立場に立たされる。

まず、担保の不動産を競売しても、貸出が回収できず、赤字に陥ってしまうであろう。不動産融資が実損を生じるようになると、銀行は一層不動産融資に慎重化するはずである。

加えて、不動産の競売が増えると、不動産の新規供給として一層不動産価格の暴落を助長してしまう事にもなりかねない。

そうした中で、不動産担保融資の損失に加え、不況による貸し倒れなども増えると、銀行の自己資本が減り、自己資本比率規制による貸し渋りが発生するようになる。その際に、優先的に貸し渋りの対象となるのが不動産担保融資になるかも知れない。

■価格下落時は買い控えが発生
株式投資に於いても不動産購入に際しても、価格が下落している時には「今の値段なら買いたいけれど、さらに下がる可能性が高そうだから、少し待ってから買おう」という買い控えが発生するかも知れない。

通常であれば、価格が下がると需要が増えるが、不動産に関しても株式と同様に、価格暴落が需要減をもたらしかねないのである。

供給についても、通常であれば価格が下がると減るが、「更に値下がりするといけないから急いで売っておこう」という相場観からの売りが出るかも知れないし、返済不能に伴う担保不動産の競売が増えるかも知れない。要注目である。

■米国では住宅ローンの担保処分が激増
米国に於いては、日本と住宅ローンの契約内容が異なるため、一層事態は深刻化しやすいのかも知れない。というのは、日本では住宅ローンは不動産価格が暴落しても返済しなければならないが、米国では不動産価格が暴落した場合には、借り手は住宅を銀行に差し出せば、残りの借金を返済しなくて良いからである。

そのため、「歯を食いしばって住宅ローンを返済し続けるより、所有不動産を銀行に差し出して住宅ローンを免れよう」という借り手が増えやすい。多くの借り手が所有不動産を放棄すると、銀行による担保不動産の競売が増え、一層不動産価格の下落を加速しかねない。要注目である。

本稿は、以上である。なお、本稿は筆者の個人的な見解であり、筆者の属する組織等々とは関係が無い。また、わかりやすさを優先しているため、細部が厳密ではない場合があり得る。

(4月10日発行レポートから転載)

TIW客員エコノミスト
塚崎公義『経済を見るポイント』   TIW客員エコノミスト
目先の指標データに振り回されずに、冷静に経済事象を見てゆきましょう。経済指標・各種統計を見るポイントから、将来の可能性を考えてゆきます。
本コラムに掲載された情報には細心の注意を行っておりますが、その正確性。完全性、適時性を保証するものではありません。本コラムに記載された見解や予測は掲載時における判断であり、予告なしに変更されることもあります。本コラムは、情報の提供のみを目的としており、金融商品の販売又は勧誘を目的としたものではありません。 投資にあたっての最終決定は利用者ご自身の判断でお願いいたします。

このページのトップへ