自己資本比率規制が貸し渋りを招く

2020/03/31

■銀行には自己資本比率規制あり
■不良債権増加で自己資本が減ると規制にかかる
■貸し渋りが景気を悪化させ不良債権を増やす
■銀行に意地悪されたと思わないで
■貸し渋られたら他行から借りるのは困難

(本文)
本稿は、金融危機に関するシリーズの第3回である。金融危機に関する全体像については第1回の拙稿「金融危機は繰り返す」をご参照いただきたい。

詳しくはhttps://column.ifis.co.jp/toshicolumn/tiw-tsukasaki/118769を御参照いただければ幸いである。

なお、本シリーズはリスクシナリオであり、筆者の予測ではない。過度な懸念を持たずに、落ち着いてお読みいただければ幸いである。

■銀行には自己資本比率規制あり
自己資本比率規制という規制を銀行は受けている。極めて大雑把だが、「銀行は自己資本の12.5倍までしか貸出をしてはならない」という規制だと理解していただければ、当該規制の影響は理解していただけるはずである。

別名BIS規制と呼ばれているように、国際機関であるBIS(国際決済銀行)が定めたものであるから、日本のみならず、主要国に共通する規制である。

これは国際業務を営む銀行だけに適用される規制であるが、日本を含む各国は、国際業務を営まない銀行に対しても、類似の規制を課している場合が多い。

規制の趣旨は、「貸出額の12.5分の1(=8%)が失われても銀行が倒産しないで済むように、銀行を健全に保とう」というものであり、銀行の倒産を防いで金融危機を予防しよう、というものである。

しかし、皮肉なことに、この規制が金融危機の初期に於いては事態を悪化させる要因となりかねないのである。

■不良債権増加で自己資本が減ると規制にかかる
バブル崩壊、景気悪化、等々の理由で銀行の不良債権が増加し、銀行の回収不能額が増えて銀行が赤字に転落すると、銀行の自己資本が減少する。

そうなると、銀行は減少した自己資本の12.5倍までしか貸出が出来ないので、新しく貸出をする事が困難になるばかりか、既存の貸出を回収する必要が出てくるかも知れない。「貸し渋り」または「貸し剥がし」と言われる現象である。

厳密に言えば、銀行の貸出は、通常は返済期日が決まっているので、途中で返せとは言えない。しかし、期日通りに返済させる事は当然できる。問題なのは、「また貸して下さい」「嫌です」という場合である。

■貸し渋りが景気を悪化させ不良債権を増やす
材料仕入れ代金を借りて材料を仕入れ、製品を販売して借入金を返済し、次の材料を仕入れるために新たに借金をする、というのが普通の企業の銀行取引であるところ、次の材料の仕入れ代金が借りられなければ、借り手企業は生産できず、倒産してしまうかも知れない。

銀行が新規の貸出に慎重になるだけでも景気への影響は大きなものとなりかねない。自動車購入資金、住宅購入資金、工場建設資金等の借入申込を銀行が断れば、自動車が売れず、住宅や工場が立たず、景気が悪化するからである。

景気が悪化すると、赤字で借金が返せなくなる企業が増える。それが銀行の不良債権を増やし、銀行の回収可能額を減らし、銀行の自己資本を減らし、更なる貸し渋りを招く、という悪循環をもたらす可能性がある。

それを止めるためには銀行に公的資金を注入する(銀行の増資を政府が引き受ける)べきなのだが、政治的な理由でこれは容易では無い。

「銀行は酷い。俺たちに貸し渋りをしている。そんな銀行を助けるために税金を使うのは絶対反対だ」と中小企業が反対するからである。

■銀行に意地悪されたと思わないで
普通の中小企業経営者は、銀行に課せられた自己資本比率規制の事など知らないだろうから、貸し渋りを受けた中小企業の経営者が銀行を恨むのは、ある意味で仕方のない事だ。

しかし、銀行も意地悪で貸し渋りをしているわけではない。自己資本比率規制があるので、止むを得ず貸し渋りをしているのである。

銀行の本業は金を貸して金利を稼ぐ事である。したがって、銀行が意地悪や悪戯で貸出を拒む事などあり得ないのだ。そこを理解していただき、銀行を恨まないでいただきたい。

そして、銀行への公的資金の注入に反対しないでいただきたい。銀行に公的資金を注入するのは、銀行を助けるためではなく、銀行に貸し渋りをやめさせて中小企業が借りられるようにするためなのだから。

■貸し渋られたら他行から借りるのは困難
「銀行に貸し渋りをされたら、他行から借りれば良い」と考える読者がいるかもしれないが、それは容易な事ではない。他行も自己資本比率規制に悩んでいるかもしれないし、他行は「見知らぬ中小企業への融資には慎重な審査を必要とするので、時間を下さい」と言うかもしれない。

既存の取引銀行は、借り手に多少の問題があっても融資を続ける場合も多いが、多少でも問題がある中小企業は他行から新規取引を認められる事は滅多にない、という事もネックとなるはずだ。このあたりについては、別の機会に詳述する事としたい。

最後に一言。金融危機が起きるか否かはわからないが、安心材料が一つある。それは、少子高齢化で日本経済の景気の波が小さくなっているため、万が一金融危機が来ても従来の金融危機より景気への打撃が少ないだろう、という事である。詳しくは拙稿https://column.ifis.co.jp/toshicolumn/tiw-tsukasaki/115744を御参照いただきたい。

本稿は、以上である。なお、本稿は筆者の個人的な見解であり、筆者の属する組織等々とは関係が無い。

(3月30日発行レポートから転載)

TIW客員エコノミスト
塚崎公義『経済を見るポイント』   TIW客員エコノミスト
目先の指標データに振り回されずに、冷静に経済事象を見てゆきましょう。経済指標・各種統計を見るポイントから、将来の可能性を考えてゆきます。
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