ヤマ場を迎える米関税交渉 ベトナムとの合意が意味するもの

2025/07/04

いわゆる「月またぎ」で7月相場入りとなった今週の米国株市場ですが、主要株価3指数(NYダウ・S&P500・ナスダック総合)の動きを見ると、利益確定売りに押される場面を見せながらもS&P500とナスダック総合が最高値を更新する展開が続いています。

一般的に、上昇相場は「序盤」・「中盤」・「終盤」の3つの場面に分けられますが、序盤は「株価の底打ち感や悪材料の出尽くし」で買われ、中盤は「不安の後退や期待感の高まり」による買いで株価が上昇し、終盤は「過度な楽観や、流れに乗り遅れることの恐怖」による買いが増え始めて、相場が天井を迎えていきます。

最近までの株式市場についても、トランプ関税の影響や米景気減速懸念を先取りする格好で急落していきましたが、いったんの材料出尽くしで4月7日に底を打ち、以降は関税交渉の進展期待や、米経済の堅調な推移と抑制的なインフレによる米利下げ観測、根強いAI需要によるテック株への期待などを背景にして戻り基調を描いて行ったように、当てはまる部分は多いと言えます。

直近では、楽観ムードが強く、上昇相場が終盤を迎えつつあるような印象もある一方、自己資本規制緩和期待で米大手銀行が買われるなど、物色の裾野が広がる動きも見せているため、まだ上昇相場が続く可能性は残しています。

そんな中、2日(水)の取引では、米国とベトナムとのあいだで、関税交渉が合意に至ったことで、ベトナムでの生産比率が高い、ナイキやルルレモン、オンホールディングスといった衣料品銘柄が上昇しました。

そこで、報道ベースではありますが、今回の米国とベトナムの合意のポイントを簡単に挙げると、「ベトナムから米国への関税率を46%から20%に引き下げ」、「米国からベトナムへの関税はゼロ%」、「(中国を念頭に)迂回輸出による米国への関税は40%」といった内容になります。その他、ベトナムは米国から航空機や農産品など、100億ドルを超える規模の購入も行うようです。今回の合意を受けた米株市場の初期反応は、「関税交渉がまた一歩前進した」ということで概ね好感した格好になりますが、いくつかの課題も残したのかもしれません。

結局、ベトナムは20%という、決して低くはない関税率を受け入れたわけですが、その背景には、ベトナムにおける米国への輸出依存度が30%を超えていて、米国との貿易がベトナム経済の生命線であることが大きいと思われます。日本はベトナムと比べて対米輸出依存度がそこまで高くはありませんが、先日、トランプ大統領は日本への不満を表すのと同時に、「30%から35%の関税率を通知する」と発言しています。現時点では「強いことを言っても、トランプ大統領はギリギリのところで引っ込める」という楽観的な見方も根強いですが、来週9日の期限が迫る中、日本側からの譲歩があるのか、それとも、このままの交渉スタイルを続けるのかなど、事態がより流動的に動く可能性があります。

また、今回の合意内容(迂回輸出への高関税)からすると、ベトナムは米国との経済的利益を優先させたのと同時に、中国との関係悪化という地政学的リスクを引き受けた格好になります。中国との関係の深い他のアジアの国がベトナムに続くのか、中国の出方をうかがいつつ、状況を見極めて行くことになります。

そのため、ヤマ場を迎える関税交渉が相場を動かす場面が増えることになりそうです。

楽天証券株式会社
楽天証券経済研究所 土信田 雅之が、マクロの視点で国内外の市況を解説。着目すべきチャートの動きや経済イベントなど、さまざまな観点からマーケットを分析いたします。
本資料は情報の提供を目的としており、投資その他の行動を勧誘する目的で、作成したものではありません。
銘柄の選択、売買価格等の投資の最終決定は、お客様ご自身の判断でなさるようにお願いいたします。
本資料の情報は、弊社が信頼できると判断した情報源から入手したものですが、その情報源の確実性を保証したものではありません。本資料の記載内容に関するご質問・ご照会等には一切お答え致しかねますので予めご了承お願い致します。また、本資料の記載内容は、予告なしに変更することがあります。

商号等:楽天証券株式会社/金融商品取引業者 関東財務局長(金商)第195号、商品先物取引業者
加入協会:
  日本証券業協会
  一般社団法人金融先物取引業協会
  日本商品先物取引協会
  一般社団法人第二種金融商品取引業協会
  一般社団法人日本投資顧問業協会

このページのトップへ