少子高齢化で日本の景気変動が小さくなる理由
■高齢者の所得と消費は安定
■高齢者向けサービス従事者の所得と消費も安定
■少子高齢化で労働力不足の経済に
■労働力不足で失業が増えにくいため消費が減りにくい
■省力化投資が景気を下支え
■インフレ時の金融引き締めは残存
(本文)
■高齢者の所得と消費は安定
高齢者の主な収入は公的年金であろうから、これは景気と無関係で、安定している。高齢者の消費は、公的年金と預貯金の取り崩しで賄われるのであろうが、預貯金の取り崩しも景気とは無関係なので、安定している。したがって、高齢者の消費は安定している。
少子高齢化によって、消費者に占める高齢者の比率が上昇してゆくと、消費全体が安定するため、景気の波が小さくなる。
■高齢者向けサービス従事者の所得と消費も安定
高齢者の消費が安定しているという事は、高齢者向けのサービスに従事している現役世代労働者の所得も安定しているという事であり、彼らの消費も安定しているという事になる。
消費者に占める高齢者の比率が上昇していけば、高齢者向けのサービスに従事する労働者が現役世代に占める比率も上昇していき、これも消費全体の安定を通じて景気の波を小さくする効果を持つ。
仮に現役世代労働者が全員、高齢者の介護に従事している経済を考えれば、そこには景気の波は存在しない。もちろんこれは、極端な仮定であるが、経済の変化としては、そちらの方向に向かって進んでいるわけであるから、景気の波が小さくなっているのである。
■少子高齢化で労働力不足の経済に
少子高齢化は、消費者と労働者の人数比を変化させ、消費の内容を変化させることで、労働力不足の原因となる。
高齢者も消費をするので、少子高齢化によっても消費者の数と消費の量はそれほど減らない。一方で少子高齢化により、現役世代の人数は大きく減るために物(財およびサービス、以下同様)の生産量は減る。
そこで、物が不足しがちになり、「もっと労働者を雇って物を作らせよう」と考える会社が増えると、労働力不足となる。
少子高齢化が労働力不足を招く理由は今ひとつある。高齢者の消費は医療や介護といった労働集約的なものが多いので、若者の個人消費が減った分だけ高齢者の個人消費が増えると、消費額に変化がなくても労働力不足が深刻化するのである。
リーマン・ショックは深刻な不況を日本経済にもたらしたが、その8年前のITバブル崩壊は、軽度な不況を日本経済にもたらした。しかし、2度の不況による失業率は同じだったのである。それは、その間に少子高齢化が進展したからであろう。
ということは、仮に今後リーマン・ショックが再来したとしても、日本の失業率は当時ほど高くはならないと考えてよさそうだ。
■労働力不足で失業が増えにくいため消費が減りにくい
労働力不足の時代には、仮に海外が不況になり、日本の輸出が減り、輸出企業がリストラを行っても、リストラされた人々が比較的容易に次の仕事を見つける事が出来るので、「収入が絶たれたから消費出来ない」という人が出てこない。
これまでは、失業した人が消費を減らし、それが更に景気を悪化させるという悪循環が生じていたが、それが生じにくくなるのである。
■省力化投資が景気を下支え
労働力不足だと省力化投資が活発化する。たとえば、アルバイトに皿を洗わせていた飲食店が自動食器洗い機を購入するようになるのである。
能力増強投資は、景気が良い時に増産するために実施されるので、景気の波を大きくする結果となりがちであるが、省力化投資は比較的コンスタントに行われると思われる。
今後は「景気が良ければ超労働力不足、景気が悪くても少しは労働力不足」という時代になるであろうから、それを認識している企業経営者は、景気にかかわらず省力化投資を行うことになろう。
それが景気の落ち込みを下支えして、景気の波が小さくなると期待されるのである。
■インフレ時の金融引き締めは残存
もっとも、景気の波が消えてしまうわけではなさそうだ。労働力不足で賃金が上がってインフレになれば、それを抑え込むために金融が引き締められ、景気が悪化するかもしれない。
あるいは、「増税で景気を悪化させてインフレを抑え込もう」といった試みもなされるかも知れない。少子高齢化で労働力不足となって賃金が上がってインフレになるという経過は、比較的予想しやすいので、「来年あたりインフレになりそうだから、今のうちに増税の法案を審議しておこう」といった事も可能だからである。
海外発のインフレの場合も、金融引き締めで景気を悪化させてインフレを抑え込むという必要があろう。海外のインフレの場合、石油ショックなどの場合、急激なドル高円安による輸入インフレの場合、などである。
もっとも、経済がサービス化していることから、以前と比べると輸入インフレの影響は小さいかも知れない。その意味では、インフレ率も安定化し、予見可能なものが中心となり、コントロール可能なものとなり、景気の大きな変動を伴わずに制御出来るものとなって行くという事は言えそうだ。
(1月8日発行レポートから転載)