トランプ体制下の世界経済と市場展望
~日本証券アナリスト協会講演会(6/17)講演録~
【ストラテジーブレティン(382号)】
2025年6月17日に行われた日本証券アナリスト協会での講演録を、協会のご厚意により掲載します。
1.はじめに
2.トランプ関税とその狙い、帰趨
(1) 関税の真の狙い
(2) 中国の劇的な台頭をいかに抑止するか
(3) トランプとは何者か
3.米中経済の大きなコントラスト
(1) 中国の巨大な不均衡と世界経済へのリスク
(2) 米国の消費主導経済の素晴らしさ
4. 日本経済と投資チャンス
(1) 向上した企業収益と取り残される消費
(2) 政策の転換で株価が上昇
1.はじめに
1年ぶりのアナリスト協会での講演となるが、この間、色々なことが起こり、様々な仮説がある中で、最も蓋然性の高い将来をどのように展望するか。足許、間違いなく大きな転換点にあり、その一つの要素は「中国の異常な台頭」である。すなわち、本質的に私有財産や個人の自由意思に基づく市場経済を尊重しない国が世界の工業力の半分を支配するという異常事態は、どう考えても資本主義体制としてサステナブルではない。もう一つの大きな転換は「AI革命」である。これまでの産業革命は、基本的に人々を幸せにしてきたが、AI革命は明らかに人を不要なものにする。雇用を機械に置き換えるという点で、放っておけばAI革命が幸せな人々の生活や経済に結び付かない可能性が高い。これら二つの現実は、個人や企業の力では如何ともしがたい。この困難を解決していくためには、大きな構想力、そして政策が必要だ。
こうした観点から、今、世界で起こっていることを解釈する必要があり、評判の悪い米国トランプ政権も、このようなビッグピクチャー抜きに評価することはできない。非民主的で権威的な対応、ときには人権を無視するかのようなふるまいが、なぜ正当化されているのか。民主主義国の米国が、あのような指導者を認めているのだから、それなりの正当性があると考えられ、その正当性も吟味されなければならない。本日は、世界の底流にある二つの推進力、「中国の台頭」と「AI革命」について考えてみたい。
日本に関しては、「既に失われた30年は終わった」と言って良いと思うが、足元で大きな問題が起こっている。家計消費の極端な停滞である。経済が回復する中、依然として消費が10年前の水準以下で低迷していることは極めて異常である。消費こそが米国が中国を打ち破っていく最大のパワーになる。AI革命で供給力が増える中、需要を提供する最も重要な力は消費だ。この最も大事な消費を、最も蔑ろにしているのが今の日本であり、現在の政策が本質的な課題に向き合っていない、という点で大きな問題だろう。この問題がクリアされれば日本の将来は明るいが、そのためには、今の日本が直面している問題に向き合う正しい政策が不可欠である。
