米債券市場で発生している逆イールドとは
▣ 逆イールドが拡大
米国債市場では、2年債利回りが10年債利回りを上回る“逆イールド”が発生しており、10年債利回りから2年債利回りを差し引いたスプレッドは8月9日にはマイナス0.5%弱と、2000年8月以来の水準まで拡大しました(図表1)。
逆イールドは景気後退(リセッション)の予兆と警戒されています。過去の例でも、景気後退入りの前に逆イールドが発生しています。
▣ 局面ごとのイールドカーブの形状は
期間(年限)に対応した金利(債券利回り)を図で示したイールドカーブ(利回り曲線)は、債券市場の需給や金利の見通しに加え、年限が長い債券ほど価格変動リスクが大きく、そのリスクに見合って上乗せされるスプレッド(タームプレミアム)などに影響を受けます。
イールドカーブのおおよその形状を局面ごとに分けると、
- 金融引締め前は、タームプレミアムや利上げ観測から、年限が長ければ利回りが高い右肩上がり(順イールド)の形状。
- 利上げ開始後は、年限の短い債券利回り中心に上昇(ベア・フラット化、利回り上昇・平たん化)。
- 利上げ局面のピーク時にはほぼフラット(長短金利が横並び)な形状に。
- その後、利上げが停止し長短金利差が小さいフラットな状態が継続。ただ、景気減速への警戒から将来的な利下げ観測が強まる局面では、年限が短い債券利回りは政策金利との連動性が高く、実際に利下げが始まるまでは低下しにくい一方、年限が長めの債券利回りは利下げを織り込む形で低下し始めることから、逆イールドが発生しやすい状況に。
- 利下げが始まると、政策金利の低下とともに短い年限の債券利回り中心に低下する一方、年限が長めの債券利回りは、タームプレミアムに加え、その後の利下げ終了や利上げを織り込み、徐々に年限が長い債券利回りの方が高い順イールドに(ブル・スティープ化、利回り低下・急こう配化)。
▣ 前回の逆イールドは
前回は2019年8月下旬と、7月の利下げ開始にやや遅れて逆イールドが発生しました。
利下げ開始直後で、長短金利差が小さい状況が続く中、米中貿易摩擦を背景に世界景気の減速懸念が強まったことや、安全資産とされる米国債、特に10年債を買う動き(価格上昇、利回り低下)が強まったことから、僅かな期間でしたが長短金利が逆転しました。
コロナ禍を予測したわけではありませんが、結果的には2020年3、4月に景気後退に陥りました。
▣ 今回は利上げのピークを待たずに逆イールドに
今回は、利上げのピークに達する前に逆イールドが発生しています。インフレ高進を受けた米連邦準備制度理事会(FRB)による急速な利上げにより、米国景気が減速あるいは景気後退(リセッション)となり、来年中にも利下げに転換するとの見方から、先々の金利を織り込む長めの債券利回りが低下し、早めに逆イールドが発生している格好です。
FRBは景気をある程度犠牲にしてもインフレを抑え込む姿勢を示しています。市場でも一時的な景気後退は織り込んできているとみられます。とはいえ、市場は来年前半の利上げ終了と、その後の利下げ開始を見込んでいる(期待している)一方、FRB高官からは来年末までの利下げ開始に否定的な発言が相次いでおり、市場とFRBの先行きの見方に乖離が生じています。
FRBがインフレ退治に苦戦し、利上げが想定以上に長期化するとの観測が強まると、内外の金融市場が不安定な動きになる可能性もあり注意が必要です。
図表入りのレポートはこちら
https://www.skam.co.jp/report_column/env/
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