教育の劣化と日本経済:「共通テスト」が示す迷走

2022/01/31

将来の経済を支える教育

日本経済は停滞し、日本株も今年、下落しています。しかし、そうした短期的な動きよりも気がかりなのは、日本の教育です。とりわけ、将来を支えるべき若年者に対する教育方針が、迷走し続けています。

迷走を浮き彫りにしたのは、1月下旬に行われた「共通テスト」です。これは国公立大学の1次試験や、多くの私立大学が利用する試験として、従来の「センター試験」に代わり、昨年から導入されたものです。しかし、特に今年のテストでは、機械的な高速処理力という、非学問的な能力を試す問題が目立ちました。

数学に関する迷走が顕著

最も顕著なのは、数学です。難易度の高まり(図表1)はともかく、より危惧すべきは、「実生活における数学」を表現しよう、との意図が空回りし、「花子と太郎」らが登場する不自然な設問が増えたことです。

背景には、「数学は生活の役に立たない」という俗説に反論したい、との出題者の意図があるのでしょう。しかし、数学に限らず、あまり役に立たないように見える基礎学問こそが、独創的な発見や思想につながり、未来の技術革新や、人類の道徳的進歩を促します。よって実生活に配慮する必要は、特段ありません。

数学力は低下しないのか?

「役立つ数学を」と、出題者に圧力をかけたのは、一部の政治家や教育評論家でしょう。学問や入試に関するそうした人々の誤った理解が出題をゆがめているとすれば、日本経済の将来をさらに暗くします。

今年のような出題が来年以降も続けば、一握りの秀才を除き、多くの生徒が数学を忌避するようになるかもしれません。また、入試で数学不要とする学部も増えるでしょう。そうした流れが強まれば、現在はまだ高位置にある日本の生徒の数学力(図表2)が低下し、数学が育む論理的思考力も劣化しかねません。

重要な「文系」でも迷走

ただし、いわゆる「理系」科目を偏重し過ぎることも、望ましくありません。科学者にも、哲学や宗教、歴史など「文系」の素養が必須だからです。もちろん、ほかの社会人も、広い教養を身につけるべきです。

この点、今年の共通テストでは、現代文や漢文などでは、興味深い内容の文章も題材となりました。しかし、英語では、身近な場面に関する英文を素早く読み取ることに、主眼が置かれました。単なる処理力を試すという数学における傾向が、英語でも鮮明になっていることは、やはり教育の迷走を表しています。

教育の劣化で経済も衰退?

根底にあるのは、学校教育に関する考え方の浅薄化、近視眼化です。本来、教育や学問の目的は、真理自体の追究です。ところが最近、流行しているのは、勉強は生活や就職のための手段だ、との考え方です。

第2次世界大戦後、日本経済は劇的な発展をとげました。続いてシンガポール、香港、台湾、韓国、中国なども、急発展しています。それらに共通するのは、学校教育の高い水準です。そのようにアジア経済の基盤である教育が今、我が国で劣化しつつあるとすれば、日本経済の将来に対し、暗い影を落とします。

 

図表入りのレポートはこちら

https://www.skam.co.jp/report_column/topics/

 

 

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