超金利低下、日本株独歩安の異常性
~日銀政策転換で日本株式急伸も~
【ストラテジーブレティン(72号)】
超低金利、株安の日本は異常
日本株式TOPIXはバブル後安値を更新した。リーマンショックから始まった世界金融危機が欧州に飛び火し、ますます燃え盛っている、との悲観説を裏付けているかのようである。しかしそれは間違っている。リーマンショック後底値からの直近株価(6月4日)の回復度合いは、米国87%、ドイツ63%、イギリス49%、フランス17%、イタリア0%の上昇に対して、日本-4%と日本株の不振が突出している。株安は世界共通ではなく、二極化しているのだ。そして株高国米、独、英には史上空前の金利低下が、株安国イタリア、スペイン、ギリシャ、フランスにはかつてない高金利(特に実質金利)が照応している。問題国南欧諸国から資金が逃げ出して株安をもたらし、体質が堅固な米英独には資金が集中し、低金利と堅調な株価をもたらしている。「米英独は潤沢な資金を活用し成長を促進せよ」が市場の神様の声である。
根底に日銀の政策敗北主義
では日本・・・世界中の資金が集中し米独英以上の低金利と円高になっている、のに最悪の株式パフォーマンス、この異常性をどう理解するべきか。市場の神様は「低金利と言う成長の条件を全く活用できていない」と言っているのだ。白川日銀総裁は、金融政策だけでデフレは脱却できない、過度の緩和はインフレをもたらすと繰り返すだけで、市場の神様が与えてくれた「低金利と言う幸運」を成長に繋げようとしない。金融政策の打つ手は何処までもあると言うバーナンキ議長と、政策敗北主義の日銀、このコントラストが日本株安の全てである、と言っても過言ではない。
「日本異常株安=政策敗北主義」、が明白になった以上、日本株安大転換は難しくはない。日銀への圧力は急激に高まり、日本の政策転換が事態の大きな転換を引き起こす可能性が強まっている。
政策に大きな影響力を持つ黒田東彦アジア開銀総裁(元財務省財務官)は「長期デフレが続いている現状では国内の消費投資は盛り上がらない」「諸外国のようにターゲットをはっきり掲げ、それを実現するための政策を強化するべきだ」「1%の(インフレのゴール)では到底デフレ脱却にならない」「もっとはっきりターゲットを決めなければいけない。たとえば1年から1年半のうちに脱却することにして、それに向けて金融緩和を徹底すべきだ」(6月4日付朝日新聞)と述べている。政策中枢の経験者がかくも具体的に政策の誤りを指摘すること自体、異例である。日銀包囲網が強まっている事がうかがわれる。日銀包囲網が猛然と強まる中で、日銀は従来の頑なな姿勢を維持することはできないだろう。
金融資本主義崩壊論=宿命的悲観論=政策敗北主義、を打破せよ
リーマンショックの悪夢再現により、再度、金融資本主義の崩壊シナリオ、つまりリーマンショックからユーロ危機へと続く困難の原因は、金融資本主義による過剰なレバレッジという同根の錬金術にあり、そのつけは容易には解消できないという観測が強まっている。日銀はそうした世界観に立ち「金融政策の限界」を言い募っている。米独英日の空前の長期金利低下は不可避の世界デフレの前兆であるとの見方である。
そうした悲観論の陥穽は、利潤率と利子率の極端なかい離を説明できない点にある。確かに長期金利が大きく低下し、それは空前の金融緩和と同時に進行している。従って緊急避難的な金融緩和が行き場のない余剰資本をもたらしているとの解釈が正しく見える。しかし、他方で企業収益は世界的に好調で、米国ではリーマンショックの一年後には過去最高となるなど、利潤率が大きく上昇している。この潤沢な利益を投資で吸収できないから資本余剰が起きている。またITバブル、リーマンショック、ユーロ危機と経済困難を経るたびに、労働分配率が低下し企業収益を大きく押し上げている。企業は人と資本を使わずに儲かるようになり、人と資本が余っている。そうした経済資源の余剰は金融資本主義や過剰な金融緩和とは無縁のことである。何故なら省力、省資本こそ現在のグローバリゼーションとインターネット革命がもたらした、世界規模の産業革命(世界的規模の労働・資本生産性向上)の落とし子だからである。
余剰資本と余剰労働力こそ人類発展の母であったことを考えると、我々は負の後遺症に囚われていると考えるのではなく、将来発展の手段を手にしていると考えるべきであろう。市場の不振の原因はユーロ危機そのものと言うより、誤った処方にある。現在の世界共通の最大の病気は財政赤字や銀行の不良債権ではなく、需要不足そのもの、だから人と金が空前の余剰となっている。緊縮財政、増税、通貨高、デフレはこの病を癒さずむしろ悪化させる。「金融資本主義崩壊論=宿命的悲観論=政策敗北主義」が諸悪の根源と知るべきである。