日本国債暴落を恐れる必要はない
【ストラテジーブレティン(67号)】
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日本の政府利払いGDP比率は世界最良
野田首相の消費税増税発議によって、日本の経済論と政策論は財政問題に収斂している。確かに過剰な政府債務が将来の禍根となることは疑いない。しかし他方、現在の日本経済の最大の問題が需要不足であり、財政赤字は余剰資本を需要に繋げるという点で有機的役割を果たしているのも事実である。大量の余剰な労働力と資本を持ちながら財政支出が削減されていたら、経済はデフレスパイラルに陥っていたであろう。財政赤字を削減するには、成長の復元により、財政を需要創造という役割から解放することが先決である。
確かに過剰な債務は企業や個人等の経済主体の死を招く。しかし他方、適度の債務=信用は経済発展の推進力であり、人類の貴重な発明の一つである。困難なのは、何処までが適切でどこまでか過剰か、の線引きが事後的にしか分からないことである。FRB前議長のグリーンスパン氏は著書「波乱の時代」の中で、南北戦争のころ銀行は40%程度の自己資本比率がないと健全とは見られなかったが、今では10%で十分とされていると述べ適切な債務水準は時代と経済環境によって大きく変化している事実に注意を喚起している。日本の財政赤字の対GDP比率は世界最高の200%、しかし長期金利は世界最低の1%、その結果としての政府の利払い負担は、対GDP比世界最低の1%にとどまっている。日本より債務比率が小さなギリシャが財政破綻に瀕しているのは長期金利が数年前の4%から危機後10%更には20%へと急騰したためである。財政破綻が現実のものとなるのは、金利が急騰する時と考えて間違いはあるまい。
国債暴落がどのような資本移動をもたらすか
それでは日本において将来、ギリシャで起こったように金利が急騰し、財政破綻を引き起こすような危機が現実のものとなるだろうか。その可能性はほとんど考えられないのではないか。と言うのは、金利の急騰は、国債が売られ他の資産に乗り換えられる急激な資金移動が発生する時に起きるのであり、同時に必ず代替資産投資を起こすからである。欧州危機に際しては、ギリシャやイタリアの国債売却と同時に、ドイツ国債が買われた。ギリシャ等南欧諸国で資金不足により景気が悪化、リストラ、財政支出削減等が進行したが、他方、ドイツでは空前の金利低下により投資ブームが起こっている。
日本国債暴落は円安、株高を伴う
日本国債が売却されるとして、その資金の行く先は、①国債より低リスクの現金、②国債より高リスクの社債・住宅債券・株式・不動産等の民間資産、③海外資産、の3つの範疇しかないが、①は危機に対応した日銀のマネタイゼーションが起きることは必至なので、考えにくい。つまり国債が暴落するような信認危機の深化に際しては、日本政府部門の債務としての日本国債と貨幣(日本円)との同質性はより強く認識されると思われるので、現金(日本円)が逃避資産になるとは考えられない。となると、日本国債暴落は、怒涛のような②の株式など高リスク民間資産か、③海外資産への資金移動によって起きることとなる。つまり国債暴落は株高または円安と同時に進行する可能性が高いと見られるのである。
異常な日本投資家の資産配分是正は不可避
現在、暴落すると懸念される日本国債を極端なまでに多くの日本投資家が抱えこんでいる。日米の金融資産配分を株式保有比率対債券・現金保有比率と言う形で比較すると、家計では日本(株式6%、債券現金59%)、米国(株式32%、債券現金24%)、年金では日本(国内株式9%、債券現金37%)、米国(株式36%、債券現金23%)、保険では日本(国内株式5%、債券現金62%)、米国(株式25%、債券現金56%)となっている。この債券、特に日本国債偏重の極端なポートフォリオは、失われた20年を特徴づける「円高・デフレ・超低金利」という異常空間の中でのみ、妥当な資産配分であった。しかし国債が暴落すれば、「円高・デフレ・超低金利」という異常空間も終わる。円安・株高が起きる。それによって20年間下げ続けてきた賃金が上昇し、日本製品の競争力が強まり、株・不動産の値上がりが始まる。国債暴落が起こったとしても、それは、官僚行政の危機ではあっても、日本経済の危機ではない。