2014年の投資戦略、高レバレッジを
~ 危機克服、米日欧主導のグローバル繁栄、日本株一段高へ~

2013/12/17

【ストラテジーブレティン(110号)】

覆される経済常識
リーマン・ショック後の経済論壇を支配した常識がことごとく覆されている。資本主義や市場経済は依然パワフルである。米国は衰退に向かうどころか、活力を取り戻しつつある。BRICSの時代ともてはやされた新興諸国は深刻な経済停滞・経済困難に直面しつつある。崩壊必死と喧伝されたユーロは見事に立ち直りつつある。何よりも「成長期待を捨てなさい」とメディアや学者、評論家が言い募ってきた日本経済が大きく蘇生しようとしている。なんと世間の常識は的外れであった事か。

2014年世界経済は先進3極、米、日、欧の顕著な経済拡大の下、株高などリスク資産投資の進展が予想される。2014年は新たなパラダイムの下で、新たな投資・ポートフォリオ秩序が形成されるだろう。キーワードは「高レバレッジ」である。日本株はその柱の一つと考えられる。2014年中には日経平均は22,000円、円ドルレートは110~115円に到達するだろう。10年物日本国債利回りは1%以下にとどまるだろう。

1.本格拡大に向かう先進国経済

絶好調に向かう米経済
米国経済は、2013年にGDPを1%押し下げた増税・歳出削減効果が無くなる上、株高・住宅価格回復など資産効果の顕在化、シェールガス効果もあり、3%の本格成長軌道入りが確かになるだろう。QEの縮小開始(今後数か月以内と予想される)は、良いサインとなろう。QEの弊害・副作用はさしあたって何もない。将来のインフレ、過剰な資産価格の上昇、過剰なリスクテイクの助長を弊害と挙げる人がいるが、過度の低インフレと低資産価格、リスク回避の是正こそがいま必要なこと、その是正が行き過ぎるということは、政策目的が完全に達成されたということ、つまりQEの終焉は完全なる景気回復、完全雇用の復活そのものなのである。当面QE縮小が始まってもQEが終わるわけではない。米国では景気回復、更なる企業業績拡大と低金利の共存の時代が続くだろう。

危機終焉の欧州
欧州危機の終焉は確実であろう。3年続いた戦後最悪のユーロ圏不況は終わった。南欧諸国のほぼ10%のGDP下落=生活水準の下落により、対外経常赤字は一掃された。また財政収支も劇的に改善、ユーロ圏全体でプライマリー財政収支は黒字化、米(▲3%)・日(▲8%)・英(▲3%)の著しい赤字とは好対照となっている。2014年、3要因が欧州景気を押し上げ、2%近い成長回復が確かとなるだろう。3要因とは、①窮乏生活が続いた南欧諸国の正常化(膨大なペントアップ需要の発現、金利急低下による信用回復)、②ドイツの緊縮から成長への政策軸の転換(CDUとSPDの連立による)、③ストレステスト完了後の信用回復・銀行機能の正常化(ユーロ圏のみ信用収縮がいまだに続いている)、である。欧州への投資資金流入がすでに増大し始めている。ヘッジファンドの覇者、ジョン・ポールソン氏はギリシャのディストレス資産を購入している。

アベノミクス期待から現実へ
日本はアベノミクスの期待から現実への転換が進展する。2014年には賃金上昇による実質所得上昇とマイナスの実質金利を2大推進力とする経済好循環が定着し、消費税増税のマイナスを吸収して1.5%前後の成長を達成するだろう。アベノミクスは、第一の矢QE(量的質的金融緩和)が決定的に重要。第二、第三は補助的要素である。これまで第一のQEの期待相場が株価を6割押し上げた。これからQEの現実相場が始まる。株高・円安を起点とした好循環は既に始まっている。企業業績の劇的改善(2014年3月期は過去最高利益も)、株高による資産効果(一年間で60%の値上がりで時価総額150兆円増加、これは消費税増税負担増15兆円の10倍)、輸入物価と建設関連主体の物価上昇、国内設備投資増加、ボーナスによる賃金上昇が起きている。また銀行貸し出しが増勢に転じている。消費税増税によるマイナス効果は、5兆円の補正予算を含む財政出動と追加的金融緩和でカバー可能。2%インフレ目標達成は困難とみられるので、2014年春先には追加緩和も予想される(購入対象を国債からETFへと拡大か)。GPIFの運用指針の変更(日本株比率を16%から18%へ)も想定され、国内投資家で株式比率引き上げの機運が高まろう。

先進国の経済回復で中国・新興国の経済困難も一時的には糊塗されよう。中国経済は過剰投資のつけにより、いずれ成長失速過程に入るだろう。まず危機シグナルは金融矛盾深化、元高と市場金利上昇、不良債権の表面化として表れるだろう。国内の矛盾・内部対立(政治統制強化と経済自由化)も看過できない。ただ先進国成長加速により、問題はしばし封じ込まれよう。

(2) ベクトル揃う先進国の経済政策、高まる株高の条件

清算主義の清算
リーマン・ショック後世界主要国を支配した政策軸が、清算主義から需要創造へとシフトした。清算主義、過度のリスクテイクの抑制、禁止、懲罰から、リフレ=需要創造、成長追及へ。需要創造の柱がQEである。当初QEは破たん回避の弥縫策として登場したが、今や前向きのリフレ=需要創造策の柱となっている。QEはリスクプレミアムの管理を視野に入れた、新段階の金融制度と認識されるようになるのではないか。

QEはなぜ正当化されるのか
リーマン・ショックの再定義が必要である。金融不祥事、過度のリスクテイクが招いた金融破綻という通説的理解は、表象的である。本質は生産性の上昇により労働・資本余剰が発生し続けたことにある。一時的に余剰を吸収していた住宅バブルが崩壊したことで、再度労働・資本余剰が表面化したことが、危機の本質である。よって正しい対応は、金融抑制ではなく需要創造。米国では2012年ごろから経済学者と当局の間でそうしたコンセンサスが成立した。FRBは調査レポートで、『①リーマン・ショック前、成長桎梏要因は存在していなかった、つまりバブル崩壊から金融危機に至る破局の必然性はなかった、②金融ショックそれ自体が潜在成長率を引き下げたが、それは金融政策によって復元できる、つまりQEによる成長率引き上げ自体がインフレを押し下げる』、という仮説を提示している。こうした議論はQE自体が需要創造政策であることを示唆している。もちろん余剰資本と余剰労働が、QEにより新規の需要にスムーズに結びつくか、金融政策だけでよいのかという議論はあり得る。ローレンス・サマーズ氏などが指摘しているように、企業の過剰貯蓄を吐き出させる税率の変更(海外子会社に対する課税、又は海外からの送金に対する減税措置など)も有効な手段かもしれない。

QEから需要創造のメカニズム
しかし、新規需要創造の主役は金融政策によるアニマルスピリットの喚起にある。アニマルスピリットの喚起とは、①金融資産のリスクプレミアムの引き下げ(資産価格の引き上げ)、②需要創造の長期支出へのシフト(実用消費から耐久財消費、奢侈品消費、住宅投資へ)に尽きる。金融市場における①と実体経済における②は同時進行し、相互にフィードバックするものであることは自明であろう。

FEDモデルの復活、株高必須
ところで①とは、民間金融機関、企業、投資家のポートフォリオを低金利の債券から高リターン(益回り・利回り)の株式へと追い出すことになる。それは究極的にはFEDモデルを復活させることになるのではないか。1998年ころまで米国の金融市場では株式と債券の間に裁定関係が成立していた。つまり株式益回り=国債利回りであった。この関係が1999年のITバブル形成、2007-8年のサブプライム・リーマン危機に至る過程で崩れた。つまりリスク回避モードの定着により、株式の相対的割安さが強まったが、その是正が需要創造には必須と認識されるのである。

そうした環境下、企業業績の続伸と潤沢な投資資金が壮大な世界株高をもたらすだろう。米国量的金融緩和の縮小が始まると言っても、企業の高利潤が主因となっている巨額の余剰資本は消えようもなく、長期金利の相対的低位安定は続く。グレートローテーションと言っても債券が極端に売られるわけではない。余剰資本はM&A、自社株買い、増配、新規投資等、企業の財務活動を活性化させ、それは更なる株高をもたらす。米国株式は2013年に1954年、1982年、に続き近代3度目の史上最高値更新(長期停滞後の)を記録した。それは過去二回の高値更新がそうであったように、経済繁栄の先駆けである可能性が十分に考えられる。

つまるところ新規需要の創造とは、「生活水準の一段の引き上げ、ライフスタイルの変化」そのものである。それにはしばし時間がかかる。それまでの間空前の水準で更なる株高が続く、と考えられるのである。

(3) 日本株高のシナリオ

日本株3つのプラスアルファ
世界株高の中でも最も注目すべきなのが日本株である。日本株式には他のどこの国にもない3つの大きなプラスアルファの上昇要因がある。第一はアベノミクスによる円高デフレからの脱却である。リーマン・ショック後の大底比で米・ドイツ株式は2.4倍の上昇となっているのに、日本株は昨年11月まで大底を這ったままであった(現在でも1.6倍)。それは欧米中央銀行が量的金融緩和を推し進めた中で、白川前総裁の下で日銀だけが消極的な金融政策を取り、円が独歩高となったからである。急激な円高は一気に日本企業の輸出競争力を低下させた。また、世界で唯一日本だけをデフレに陥れた。円は韓国のウォンに対して2倍になったため、日本企業は賃金を半分に引き下げることを迫られたのである。デフレ(=売価の低下)はコスト引き下げの余地が乏しい内需型サービス産業を著しく損なつた。こうして円高デフレが日本の産業全体を弱体化させ、日本経済の一人負けを招来したのであるが、その根本原因がアベノミクスによって是正されつつある。

第二のプラスアルファ要因は、日本株の割安さの度合が古今東西、史上空前であるが、これが是正されるということである。今、日本株式の益回りは7%、つまり100円の株で7円の利益を上げている(配当だけで1.7円程度)が、他方100円で債券を買ったら利回りは0.8%、80銭、両者には8倍もの開きがある。言うまでもなく預貯金の利回りはゼロである。にもかかわらず、これまで日本では株にお金が向かわなかった。それが是正される大きなうねりが起きつつある。

朝鮮戦争以来の地政学局面に
第三のプラスアルファ要因は「地政学」である。バブル崩壊後23年間に及ぶ日本の長期停滞の根本的要因は、米国による“日本封じ込め策”である。日本の1990年までの繁栄、自動車やエレクトロニクスなど著しい産業競争力の向上は、米国発技術の導入改善と米国市場における顕著なシェア獲得によって可能となった。しかし日本のそうしたオーバープレゼンスは覇権国である米国の産業基盤を脅かし、米国国益を損なうものとなった。このため貿易摩擦、超円高等々ジャパン・バッシングが起きて叩かれた。それが今、反転している。なぜなら、日本経済の復活がアメリカの国益にとって決定的に重要だから。これ以上、日本が弱くなったらアジア全域が中国の支配下に入ってしまう。強い日本経済こそがアジアにおいて中国を封じ込め、アメリカのプレゼンスを維持する必要条件となった。つまり、日本経済に対する地政学的な逆風が順風に変わったのである。戦後の日本繁栄(1950~1990年)の起点は1950年の朝鮮戦争勃発、それにより日本経済の早急なる復活は必至となった。それから60年後、再度地政学リスクが高まっている。今後不可避と思われる、北朝鮮の崩壊、中国の民主化を推進していくうえで、日本経済プレゼンスの高まりが不可欠である。日本は対米追随から「世界共和国」(世界新秩序)の担い手へと昇華していくことが望まれる。

このように、いよいよ世界経済の繁栄と日本一人負けの是正が同時進行する局面に入った。

(4) 日本株式投資のポイント

日本企業が獲得した成長のばね

よく考えれば、失われた20年とは発展の条件を蓄積した20年とも言える。日本企業は逆風の中で、
①世界最高のスリム化・コスト削減、
②先端技術開発とソリューション提供型(サービス一体型)ビジネスモデルの開発、
③グローバルネットワークの確立、世界市民化、
④潤沢な資本の蓄積(空前の投資余力=富士フィルムの成功体験を見るまでもなく潤沢な資本蓄積は、飛躍の決定的条件)、を成し遂げた。
これらが円高・デフレ脱却の環境下で、大きな収益増加となって顕在化する、今はその前夜にあると言ってよいだろう。

日本株、空前の好需給
日本株式で始まっている(と当社が想定する)世紀の相場は、第二波に入ったと思われる。空前の好バリュエーションと好需給が想定される。当局によるあからさまな株への資金誘導はパワフルである。5つの牽引役が想定される。①来春に想定される日銀による追加金融緩和ではETF購入を増やす公算、②GPIFの改革で株式比率が引き上げられる、③年金保険など売る理由を探していた機関投資家は、株高→リスクテイク能力の高まりで株式比率引き上げへ押し出される、④外国人の日本株投資は長期と短期の双方で進展、短期投資家はファンディングコストゼロ、配当利回り1.7%という異常なキャリーのメリットを追求しポジションを積み上げるだろう。⑤増税前の株売り一巡、NISA効果で個人も株にシフト。

執拗に続く円安・・・一掃された円高要因
為替はOECDの購買力平価化が104円ということもあり、この水準がいいところとの観測が優勢である。しかし以下のように円安要因がかつてなく積み上っている。円の急落をもたらす需給要因にも目配りが必要である。
① 世界的リスクテイクの活発化、円安投機加速へ →グローバルリスクオン=円安との連想が共有されている。
② 日本の物価がプラスになり、日本の実質金利がマイナス化し、長期金利で見れば実質金利差は日米逆転した。
③ 日本のベースマネーの伸びが最大へ(Don’t fight Japanese easy money)、
④ 日本で最もリスク環境変化に敏感なのは個人投資家(ミセス渡辺)。個人による為替投機が動き出す。
⑤ 原発稼働停止・石化燃料輸入増大・貿易赤字増大により実需のドル買いが起きる、経常黒字に寄与する所得収支は実需に無関係。
1978年から1985年にかけて円は著しく安くなった、第二次オイルショックによる貿易赤字化が要因。しかしその円安が日本の競争力を著しく強くした。このことの再現が起こり得る。

3つのグループが注目される
Ⅰ.円安効果、グローバル輸出企業の再評価
① 輸出価格・数量の増加・Jカーブ効果発現→ 観光業、農産物も
② 海外資産の円安増価(自己資本の高まり)
Ⅱ.デフレ脱却 = 売値の改善でマージン向上(内需関連、金融・不動産・建設から運輸)

Ⅲ.国民生活向上、消費増加・・・小売、娯楽、医療、教育

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