政府の財布創設で株価は V 字回復の可能性
【ストラテジーブレティン(54号)】
危機の本質は銀行の「突然死」の可能性
8月以降の世界株式同時暴落の本質は、ギリシャ危機に端を発した流動性危機である。OISスプレッド、TEDスプレッドなど欧州銀行間短期金利の急上昇、ドル資金調達難、シーメンスがフランスの銀行からECBに預金を移したこと(9.20ファイナンシャル・タイムズ)、ラッセル1000の銘柄間相関比率が80%となりブラックマンデーやITバブル時、リーマンショックなど過去の危機のピークを上回ったこと(9.23ファイナンシャル・タイムズ)、等は全世界の金融市場が欧州における金融機関の「突然死」に対して一様に身構えていることを物語る。世界の株式市場は一旦、再度リーマンショック型の暴落過程に入ったのである。
ギリシャが債務不履行に陥れば、ギリシャに資金を貸し付けている欧州の金融機関が破綻し、金融恐慌に至るとの恐怖が市場を捕らえている。最悪ではギリシャの破綻がポルトガル、アイルランド、スペイン、イタリアと伝染し、ユーロが崩壊するとのシナリオも浮上している。こうなるともはや各国の景気実態や、財政健全度(ソルベンシー=支払い能力)分析などは余り意味を持たない。イタリアとギリシャでソルベンシーのレベルが異なると言ったところで、意味を成さない。銀行の「突然死」の可能性が排除されるかどうか、唯一の市場の関心事なのである。
ギリシャ危機の原因は「財布を持たない政府」にある
ギリシャ危機が蔓延した背景には、「財布を持たない財政」と言うユーロの矛盾がある。中央銀行の最大の役割は「政府の財布」であり、各国政府は中銀と言う財布を持つことで自立した財政政策が可能になる。しかしユーロ各国は独立した財政を持ちながら、独自の財布を持たない。資金は市場から調達せざるを得ないから、政府が一介の企業のように市場のパーセプションに翻弄され、安全だったはずの政府債権を多額に保有する欧州銀行は破綻の危機に瀕する。ユーロ財政の一体化がすぐには実現できないなら、次善の策としてユーロ各国の財政の財布を作る必要がある。今進行している欧州金融安定化基金(EFSF)の規模と機能の拡充はそうした試みに外ならない。EFSFの拡充は銀行が負担すべき損失の公的肩代わりのスキームでありそれが機能すれば、政府債務は保証され銀行の信用不安は解消する。
過去、公的資金注入が株価の鋭角転換をもたらした
こうした状況下での株価底入れは一様であった。
(1) リーマンショック時には、銀行非難の嵐の中で銀行救済プログラム(TARP)が決定されたことで、事態は転換した。2008年10月に議会で承認、長期金利は1ヶ月後に底入れし、株価はTARPの実施状況の確認、ヘッジファンドの解約などに伴う需給整理に手間取ったものの4ヶ月後に底入れした。
(2) 日本では2003年5月メディア等の批判に抗して「りそな銀行」を公的資金によって救済した(100%国有化しなかった)時に長期株価下落は終焉し、急上昇に転じた(株価の大底は2003年4月)。
(3) 大恐慌の時でも過去の清算にこだわったフーバー大統領が退陣し、1933年2月のルーズベルト新大統領による銀行への公的資金投入(銀行閉鎖と整理統合を伴う)で株価が急上昇を開始、一年間で2倍の値上がりとなった(株価大底は1932年6月)。
このように公的資金注入の先には、株価のV字回復が待っている可能性が強い。EFSFの規模と機能の拡充が成功裏に実現できれば、市場の雰囲気は一変するだろう。