縮みゆく地銀 ~その採算悪化と不動産マーケットとの関係を考える~

2018/12/28

地銀
(出典:オリックス)

ゆうちょ銀行の貯金限度額が現在の1,300万円から2,600万円へと倍増することが公表された(※1)。これは民業圧迫につながるとして各銀行は反発している。しかし、現在の銀行を取り巻く状況からすれば、もはや預金を受けてそれを貸出に回すという「預貸モデル」が機能していない以上、貯金限度額など大した問題ではないことは明らかだ。本稿はより厳しさを増す銀行、特に地銀が今後どうなっていくのか、更にそれが周辺にもたらすインパクトを分析することとする。

銀行の基本的なビジネス・モデルは貸出による金利収入であると言われてきた。すなわち、顧客からの預金を原資として主に企業に対し貸出を行い、金利を顧客と銀行とで分け合うというものだった。しかし我が国の場合、ゼロ金利政策を前後に預金金利はほぼゼロに近い水準にまで下落した。更に絶対的な金利水準が下落している以上、金利収入に期待するのは難しい。

仮に今後日銀が量的緩和を終了させ高金利に移行したとしても、銀行の金利収益が直ちに増大する訳ではない。なぜならば銀行が貸出により得る収益が増大する訳ではないからだ。既に銀行が預金を原資に貸出を行ったと言及した。しかし、それは帳簿上の動きであり、実際には銀行間での資金融通を行っているマーケット(このマーケットをコール・マーケットと呼ぶ)で借入れた資金(キャッシュ)を原資に回している。そのため、単純に高金利になったからといっても、その上昇分はコール・マーケットで得る利益である。そのコール・マーケットでの貸出量を増やそうにも、借入を行う企業にとっては絶対的な金利が上昇していることには変わりないために資金需要は下落する。このようなメカニズムで最早金利ビジネスは立ち行かない。

こうした金利ビジネスの代替として各行が追及してきたのが非金利収入、いわゆる手数料ビジネスである。しかし、これも最早立ち行かなくなっているのは明らかだ。そうした手数料ビジネスの典型がATMでの引出に伴う手数料であるが、三井住友銀行と三菱UFJ銀行がATM共用化を進めてきており、そこへの地銀の参画を要望している(※2)。その背景にあるのがセブン銀行の成功であった(※3)。他方で、そのような中で共用化を進めた理由のもう一つはATMが“コストの塊”であるからだ(※4)

更に銀行が非金利収入として重用したのが為替手数料だった。それもまたメガバンクが主導する形で自壊の道をたどっている。地銀60行が参加する形でみずほ銀行がデジタル通貨の流通を来年3月に開始する旨、公表されているのだ(※5)

他方で、銀行、特にメガバンクの収益構成を見ると、マーケット収益が重要な要素にあることが分かる。しかし、ここで簡単に収益を得ることが出来る訳ではないことは読者自身の経験から言っても明らかだろう。地銀の場合、これに加えて運用担当者の数・経験が少ないという課題がある。マーケットに関わる人材の絶対数が少なく、また新たに運用に関連する部署を立ち上げようにも、ある意味で運用担当よりも重要なマーケット事務に関わる人材の育成が困難だからだ。すなわち、運用に係るコストが高すぎて運用ビジネスへの新規投資およびその維持が困難である。

そうした苦境の中で、政府も対策を講じている。政府が主導する「未来投資会議」が地方銀行の統合に関わる独占禁止法の適用要件を緩和する方針を明らかにしているのだ(※6)金融庁も今年4月にそうした中での地域銀行の在り方についての報告書の中で独占禁止法の影響を述べている(※7)。しかし、採算が悪化している銀行が統合したところでそう簡単に回復できるわけでもなく、また新たな投資を行うためにもキャッシュ確保に走ることも無くは無いのである。

これに連関して憂慮しなければならないのが、不動産マーケットとの連関である。今年6月末ベースで私募REITに対する投資額1兆6,799億円のうち、38.7パーセントが地域金融機関なのである(※8)。平成バブルのときも銀行は不動産投資に明け暮れた。我が国経済が苦境に陥ると、銀行は不動産マーケットに注力するというのがパターンであった。地銀が悪化すれば資産圧縮として(私募)REITの売却に走る可能性が在る、すなわち不動産マーケットの悪化につながり得る、逆に不動産マーケットが悪化すれば地銀が更に苦境に至る可能性もあるのだ。

そうではなくとも、私募REITは2-3年で(一旦)手仕舞するケースが多い。地域金融機関は2015年から2016年にそうした資産への投資を拡大してきた(※9)。期末決算を控えていることもあり、来年に(一旦の)売却に走る可能性も充分あり得るのだ。

「L’argent n’a pas d’idée(マネーは思想を持たない)」と言及したのはフランスの哲学者ジャン=ポール・サルトルだった。お金に差異は無い。我々(個人)消費者にとってはどの銀行とお金の取引をしようがその相違をさして気にしてはいない。しかし銀行にとってはそうはいかない。如何に顧客を掴むのか。人口減少が進む日本だからこそ、地銀の未来はそこにかかっている。

*より詳しい事情についてご関心がある方はこちらからご覧ください(※10)

※1 https://www.asahi.com/articles/ASLDV415WLDVULFA00F.html

※2 http://www.tokyo-np.co.jp/article/economics/list/201812/CK2018122602000132.html

※3 https://business.nikkeibp.co.jp/atcl/report/15/278209/112900086/

※4 https://dot.asahi.com/wa/2018070500011.html

※5 https://www.nikkei.com/article/DGXMZO39396320W8A221C1MM8000/

※6 https://www.nikkei.com/article/DGXMZO39144420Z11C18A2EE9000/

※7 https://www.fsa.go.jp/singi/kinyuchukai/kyousou/20180411/01.pdf

※8 https://www.ares.or.jp/action/research/pdf/shibo_201806.pdf

※9 https://www.nikkei.com/article/DGKKZO07911750S6A001C1NN7000/

※10 https://www.mag2.com/m/0000228369.html

株式会社原田武夫国際戦略情報研究所
原田武夫グローバルマクロ・レポート   株式会社原田武夫国際戦略情報研究所
トムソン・ロイターで配信され、国内外の機関投資家が続々と購読している「IISIAデイリー・レポート」の筆者・原田武夫がマーケットとそれを取り巻く国内外情勢と今とこれからを定量・定性分析に基づき鋭く提示します。
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