日本の空を日本車が覆う日 ~我が国は「空飛ぶクルマ」開発をリードすることができるのか~

2018/11/22

日産のカルロス・ゴーン会長(*)逮捕事件が日本を揺るがしている。金融商品取引法違反ということで東京地検特捜部が動いたのは読者も周知のとおりである(※1)。これは当然フランスでも危機的状況として注目を集めている。ゴーン会長は日産とルノーの業務提携を永年主張していた。それが今回の騒動を受け、日産がルノーを買収するというフランスにとって悪夢とでも言うべき流れになる危険性を報道しているのだ(※2)

この様に渦中にある自動車業界で更に別の大きな話題がある。それが「空飛ぶクルマ」である。「クルマ」とは銘打っているものの、厳密には「電動垂直離着陸型無操縦者航空機」と定義されており、「航空機の電動化」が中核的な技術であるという(※3)。しかし航空機メーカーだけでなく、電動化に伴い電子機器メーカー、更には自動車メーカーも参入し、まさに群雄割拠の動きを見せている。 本稿ではこの「空飛ぶクルマ」では、むしろ部品供給メーカーに注目すべきであることを議論したい。

そもそもこの「空飛ぶクルマ」は我が国ではなく海外で進展してきたものであった。その背景にはパリ協定に象徴される二酸化炭素排出量との関係がある。その推進国の一つがヨーロッパである。

ヨーロッパは元来、環境に良いとしてディーゼル車を推進してきた。しかしフォルクスワーゲン社の排ガス不正問題に端を発して一気にディーゼル車を駆逐する動きを見せているのである。たとえばパリ協定の主導者であるフランスでは、マクロン政権が「脱ディーゼル」を理由として更なる増税を企図しており、先日(17日)にはこれに反対するデモが各地で生じている(※4)。他方で推進してきたのが電気自動車であり、「空飛ぶクルマ」もその延長線上で推進されているものなのだ。たとえばスロバキアの企業が開発した「AeroMobil4.0」はヨーロッパで飛行許可を取得しており、再来年には飛行実験を行う予定である。

アメリカでは、我が国でも実証実験を推進しようとしているが、ウーバーが米航空宇宙局(NASA)と提携し2023年の実用化に向けた研究開発を実施している。

翻って我が国を見ていると、2021年にエアバスが実証実験を行うのを皮切りに2023年には国内県ベンチャーを含めた各社が実証実験を行っていくというロードマップに対する議論案を経済産業省が公開している(※5)

民間も動いている。既に「ドローン・ファンド」が登場するなど、この分野への投資を進めている(※6)。またトヨタ自動車(証券番号:7203)やパナソニック(証券番号:6752)、またNEC(証券番号:6701)らが投資する技術者集団「CARTIVATOR」が2020年にデモ飛行を行うべく機体開発を行っている(※7)

この「空飛ぶクルマ」は電動化がカギになっているため、部品メーカー、特に電子機器メーカーや制御メーカーに大きな影響を与え得る。その中でも注目すべきなのがバッテリーである。現在、車載リチウム・イオン電池のマーケットは日中韓の3強が大きなシェアを有するマーケットであり、我が国ではパナソニック(証券番号:6752)がその代表格である(※8)

但し、依然として欧米が一歩先に進んでいる感は否めないのが現実である。またここでは詳述しなかったが、中国が猛烈な勢いで開発を進めている。他方で、部品に関しては我が国が強みをもつセクターも少なくない。したがって、もし「空飛ぶクルマ」への投資を検討するならば、完成車自体への投資を検討するのも一つの手ではあるが、そこへ供給する部品メーカーへの投資を検討するのも一つの手である。

ただし1点だけ留意点を記述したい。実は、航空機エンジン・マーケットは米英でマーケットを寡占している状況にあるというのが業界での常識である。具体的には、「空飛ぶクルマ」の開発にも積極的に名乗りをあげている英ロールス・ロイス社、また世界的な製造業コングロマリットである米GE社、そして米プラットアンドホイットニー社の米英3社が“握って”いるマーケットなのである(※9)。今回俎上に上げた「空飛ぶクルマ」はあくまでも個人や小規模に向けた輸送機器として開発を進めているものである。これが万が一、多人数を運ぶ旅客機の様なものになってくると、こうした米英メーカーとの対立を迎えることとなると考えるのが妥当である。したがって、直近にこのような大型の「空飛ぶクルマ」の開発案が我が国から出た際には注意しなければならない。

*より詳しい事情についてご関心がある方はこちらからご覧ください(※10)

*日産の取締役会が本日(22日)にゴーン会長の会長職を解任するとの見通しがあるものの、本稿では会長と記述することとする
※1 https://www.asahi.com/articles/ASLCM5QBXLCMUTIL02C.html

※2 https://www.latribune.fr/entreprises-finance/industrie/automobile/affaire-ghosn-nissan-veut-il-racheter-renault-798100.html

※3  http://www.meti.go.jp/shingikai/mono_info_service/air_mobility/pdf/002_02_04.pdf

※4 https://www.bbc.com/news/av/world-europe-46248880/france-fuel-protest-thousands-march-in-yellow-vests-over-diesel-tax

※5 http://www.meti.go.jp/shingikai/mono_info_service/air_mobility/pdf/003_02_05.pdf

※6 http://dronefund.vc/

※7 http://cartivator.com/

※8 https://newswitch.jp/p/13437

※9 https://www.facebook.com/ana.japan/posts/856342627746316

※10 https://www.mag2.com/m/0000228369.html

株式会社原田武夫国際戦略情報研究所
原田武夫グローバルマクロ・レポート   株式会社原田武夫国際戦略情報研究所
トムソン・ロイターで配信され、国内外の機関投資家が続々と購読している「IISIAデイリー・レポート」の筆者・原田武夫がマーケットとそれを取り巻く国内外情勢と今とこれからを定量・定性分析に基づき鋭く提示します。
・本レポートの内容に関する一切の権利は弊研究所にありますので、弊研究所の事前の書面による了解なしに転用・複製・配布することは固くお断りします。
・本レポートは、特定の金融商品の売買を推奨するものではありません。金融商品の売買は購読者ご自身の責任に基づいて慎重に行ってください。弊研究所 は購読者が行った金融商品の売買についていかなる責任も負うものではありません。

このページのトップへ