さらなる金融バブルの到来か?「中国とバチカン」が手を握る意味とは何か
米中貿易戦争が続いている。先月(9月)24日(米東部時間)にトランプ米政権が追加制裁を実施したことに中国側が反発し、閣僚級貿易協議は取り止めとなった。長期化が必須であるという報道が相次いでいる(※1)。この二大大国の対立はグローバル経済にとって大変な悪影響があるのは明らかであり、特に当事者である中国は大きな被害を受けている。では中国はこのまま不況に追い込まれるのか?いや、そうはならない可能性があることを議論したい。
中国は「一帯一路」政策を通じて経済領域の拡大を行ってきた。どうしてその必要があったのか。それは、最早中国国内でのモノの需要不足を賄えないからである。そのために19世紀の帝国主義的にも近い貸出と自国企業の進出をセットとした経済外交政策を進めてきた。しかし、米中貿易戦争が生じたために一大マーケットである米国を失うこととなり、サプライ・チェーンが停滞してしまった。
中国が地方債を中心として不良債権を多数有しているのは度々指摘されていることであり、そうなると中国におけるマネー・フローがショートしてしまうことになりかねない。中国はこのまま債務不履行の嵐に巻き込まれて行ってしまうのか。
ここで中国の救世主になり得るのが、実はバチカンなのだ。
9月22日(北京時間)、中国とバチカンが司教任命問題を巡り暫定合意に至った旨、発表された(※2)。バチカンは共産主義国において司教の任命問題を抱えてきた。2018年時点でバチカンがこの問題を唯一抱えていた相手というのが中国だったのである。
カトリックの総本山が中国とどのような関係が?特にどうしてマネーの話とバチカンが?と読者諸兄は訝しむことだろう。しかし、実はバチカンは宗教や政治とは異なる別の顔を持っている。バチカンこそが、「グローバル・マクロ」、つまりグローバル規模での資金循環における根源的なプレイヤーの一人なのである。
バチカンがグローバルな金融マーケットで大きな力を見せ始めたのはそう昔のことではない。1929年、当時のローマ法王ピウス11世は権力の全盛にあったイタリアのムッソリーニと「ラテラノ条約」を結んだ。この条約の中でイタリアは、かつて1870年にイタリア王国が教皇領を没収したことに対して当時の価値で約8,500万ドルに上る賠償金をバチカンに支払うことを約束したのだ。
それを原資にバチカンは宗教事業協会(IOR)、通称「バチカン銀行」を設立したのである。その規模はすさまじく、一時期にはヨーロッパ中の株式が“バチカン・マネー”によって買い占められていたほどだった。買収可能な企業がなくなってしまったためにカトリックの教義に反する避妊具を製造するメーカーすら買収していたというのだから、その規模は計り知れない。
ところが、こうした「バチカン銀行」の天下もいつまでも長続きしたわけではなかった。2009年、「バチカン銀行」の内情をリークするある衝撃的な1冊の本が出版されたからだ。さらには2007年以来、世界中を騒がしてきたウィキリークス事件にあやかった、「バチリークス」と呼ばれる各種リークが続出した結果、「バチカン銀行」は大幅な改革を余儀なくされてきた。しかし、バチカンは「バチカン銀行」を縮小するどころか、依然として維持しようとしていることが再度暴露されているのだ。
この顛末を踏まえると、そのバチカンが中国と暫定合意を結んだことのインパクトは、スキャンダルを受けて次なる投資先を探しているバチカンが次なるターゲットとして中国に狙いを定めたことにあるのだと解釈できるのである。
貿易戦争を通じて、中国の実需筋によるマネー・インフローは減少している。その一方で中国は外資に対するさらなるマーケットを開放した。中国人民銀行の易綱・新行長(総裁)は金融マーケットのさらなる開放を約している。そのような中でバチカンからのマネーが入れば何が起こるのか。
実需が冷え込む一方で投資マネーが流入する。これは円高不況から一挙に平成バブルへ移行した我が国と類似した動きであることに注意する必要がある。すなわち、いよいよ中国での金融バブルは新たな局面を迎え、さらに拡大していくことが目に見えているのである。
過熱感が散々謳われてきた香港や上海の不動産マーケット、またロンドン・シティとの接続がなされている株式マーケットが更なる上昇を続けていくのか、引き続き注視していきたい。
(*より詳しい事情についてご関心がある方はこちらからご覧ください(※3))
※1 https://mainichi.jp/articles/20181004/k00/00m/020/083000c
※2 https://www.vaticannews.va/en/vatican-city/news/2018-09/china-holy-see-agreement-appointment-bishops.html
※3 https://www.mag2.com/m/0000228369.html
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