『億万長者』はなぜ宇宙を目指すのか?
去る1969年、プリンストン大学の物理学者ジェラード・K・オニールは人類の移住先として宇宙空間に建造される大型人工衛星「スペースコロニー(宇宙植民地)」を提唱し、SFオタクやNASA職員、年齢を重ねたヒッピーらの間で話題となった。
地球と月との間で互いの引力がつりあう領域(ラグランジュ・ポイント)に設置される「スペースコロニー」では、居住区域が回転し遠心力によって擬似重力を得ることができ、人間が地球上と変わらない生活ができるようになるという構想である。
(図表:シリンダー型「スペースコロニー」の想像図)(出典:Wikipedia)
1980年代、プリンストン大学のオニール・ゼミで、オニールの構想に熱心に耳を傾ける学生がいた。彼は、世界経済が拡大し人口が増加し続ける中でも、人類が未来を確保するための唯一の道が宇宙であると悟り、いつかこの構想を実現すべく、莫大な財産を蓄え続けた(参考)。
学生の名は、ジェフ・ベゾス。Amazonの創業者である。
大学卒業後、ベゾス氏はインテルや、AT&Tの研究開発部門として独立したベル研究所などのオファーを受けたが、彼が選んだのは金融決済システムを手掛けるスタートアップFitel社であった。その後、米有力投資銀行バンカース・トラスト、ヘッジファンドD. E. Shaw & Co.社を経て、1994年にシアトルでインターネット書店「Cadabra.com」を開業。現在の「Amazon.com」の誕生である。21世紀初頭のITバブル崩壊を生き残り、「世界で最も影響力のある経済・文化的勢力の一つ」となったのであった(参考)。
(図表:カーター米国防長官(左)と会談するジェフ・ベゾス氏(右))
(出典:Wikipedia)
そうした中で2000年、民間宇宙開発企業『Blue Origin』を設立し、オニール構想の実現に向けて動き出し、ついに去る(2021年)7月20日(米東部時間)、ベゾス氏ら4人を乗せた宇宙船のロケット打ち上げが成功し、ベゾス氏は10分間の宇宙飛行を実現させたのである。
またこれに先立ち、(2021年)7月11日には英実業家リチャード・ブランソン氏は、自ら創業したヴァージン・ギャラクティック社の宇宙船で、NASAや米空軍が「宇宙」とする高度約80キロ(50マイル)を超える高度約85キロに到達している(参考)。そして、米Tesla社のCEOイーロン・マスク氏も、宇宙開発企業SpaceXで同じく宇宙を目指している。
気候変動、パンデミック、拡大する格差など、全人類が地球規模の課題に直面している今このタイミングでの宇宙旅行など「道楽であり、大富豪にしかできない贅沢」だとする批判もあるが、他方でこれら地球規模課題が極大化している今だからこそ宇宙を目指しているともいえる。
現時点では、その法外なコストゆえに大富豪でもなければかかわることのできない宇宙ビジネスだが、今後、さらに宇宙旅行が収益性のあるビジネスとして確立すれば、これは巨大なフロンティアとなることは間違いない。その市場規模は、2040年代には全世界で1兆ドル(約109兆円)以上になるとの試算も出ている(参考)。
そして我が国企業の技術力もその巨大なフロンティアの最前線で活躍しているということは、「はやぶさ2」の帰還をみても明らかである。三菱重工業(7011)の機体姿勢制御装置や、NEC(6701)のイオンエンジン、富士通(6702)の軌道を計算するシステムなど、大企業の活躍がフォーカスされるが、これらを支える中小企業の技術力にも注意が必要だ。なぜなら我が国の中小企業がもつ技術力やノウハウ、頭脳を米国を中心とした海外勢も注目しているためだ。例えば、米ベンチャーキャピタル「In-Q-Tel」社は、投資パートナー「nTopology」社を通じて、Yamaichi Special Steel(YSS)社との覚書を発表しているが、この「In-Q-Tel」社は米中央情報局(CIA)直下の投資機関であることは「公然の秘密(open secret)」である(参考)。
宇宙ビジネスは、電子、部品、新素材等、多岐にわたる産業分野である。大富豪が牽引する宇宙ビジネスとそれに連動する我が国の「宇宙開発関連銘柄」に注視してまいりたい。さもなくば早晩、海外勢に刈り取られる恐れもあるためだ。
グローバル・インテリジェンス・ユニット リサーチャー
原田 大靖 記す
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