再び蠢き始める水道民営化と我が国の近未来
中国において節水への意識を高めるキャンペーンが行われた。
昨年(2020年)8月に習近平国家主席が発出した「食べ物節約令」及びそれに基づいて今年(2021年)4月29日に可決・施行された「反食品浪費法」に続き、水も節約の対象となる(参考)。
将来的に、気候変動などにより安全な飲料水へのアクセスはますます制限されると考えられている。
今年(2021年)5月にはG7サミットにおいて(1)気候変動の対応力、(2)水アクセスレヴェル、(3)気候資金の分配という3つがキーワードとなる旨、ジョンソン英首相が示した(参考)。
中国勢において行われた上記のキャンペーンでは、その開会式において上海勢の節水への取り組みが称賛された(参考)。ここで注目すべきは、上海勢における「水効率化」、特に水道管網の監視を担っているのが、世界第1位の水メジャーであるフランス勢のヴェオリア・エンヴァイロメント社であるという点だ。
(図表:ポン・デュ・ガール)
(出典:Wikipedia)
世界的に1980年代以降、水道事業の民営化が進められてきた。
その始まりは去る1985年、当時パリ市長であったシラク元仏大統領がヴェオリア・エンヴァイロメント社及び世界第2位の水道メジャーであるスエズ社にパリ市の水道事業民営化を任せたことにある。両社は国内市場が飽和すると海外進出を図り、グローバル・オペレーターとしての地位を確立した。
ところがパリ市では、物価上昇率が70.5パーセントであった25年の間に水道料金は265パーセントもの値上がりを見せた(参考)。こうした事態を受け去る2010年にはパリ市は水道事業を再公営化した。欧州勢を中心に、水道事業を再公営化した事業体は去る2000年から2017年の間に267事例に上る(参考)。
こうした中で我が国では水道民営化が更に進められようとしている。
去る1887年に横浜で敷設された近代水道に始まる我が国の水道事業は、現在では国民皆水道がほぼ実現するまでになっている。その法的基盤は1957年に成立した「清浄にして豊富低廉な水の供給を図り、もって公衆衛生の向上と生活環境の改善とに寄与すること」を定める水道法にある。ところが人口減少による水道料金収入の減少、施設の老朽化や職員減少などの課題を抱えてもいる(参考)。
去る2018年には安倍政権の下、改正PFI法及び改正水道法を成立させて民間企業の水道事業参入を認める体制を整えつつある。これにより公共施設などの運営権を民間事業者に売却する「コンセッション方式」が水道事業に導入されるとみられていた。
静岡県浜松市ではすでに下水道をコンセッション方式で契約、ヴェオリア・ジャパン、JFEエンジニアリング、オリックス(8591)を中心とした企業連合により民営化が進められているものの、市民の反対も強い。更に上下水道及び工業用水の運営権を一括して民間企業に売却する宮城県の「みやぎ型管理運営方式」も進められているが、これをめぐっては水質管理や災害時対応といった重要事項の説明がなされていないことで懸念も見られている(参考)。
フランス勢をはじめとする欧州勢における水道事業民営化の失敗を受け、グローバルに展開する水メジャーが我が国をはじめとする東アジア勢において新たな市場を開拓に走るのか。それとも中国勢において「節水」をきっかけに締め出しの方向へと動くことになるのか。引き続き注視していきたい。
グローバル・インテリジェンス・ユニット リサーチャー
佐藤 奈桜 記す
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