培養肉100%「ハンバーグ」が「ステーキ」に飛躍する日
シンガポールが世界で初めて「培養肉(lab-grown meat)」の販売を承認した(参考)。いわゆる「クリーン・ミート(clean meat)」に対する世界初の規制当局による承認となる。
ことの始まりは去る2013年8月ロンドンで開催されたある不思議なイヴェントだった。
(出典:Wikipedia)
主催者はオランダ・マーストリヒト大学のマーク・ポスト(Mark Post)教授。専門は血管生理学なのだがテーマはハンバーガーの試食会。ところがただのハンバーガーではなかった。実は具材の肉が牛の幹細胞をシャーレで培養したものだったのである。
こうして人工的に製造した肉をマーク・ポスト教授は「Cultured Meat」と呼んだ。これをきっかけにグローバル規模で「培養肉」ブームが始まった(IISIAマンスリーレポート2018年4月号参照)。
近年「健康志向」「動物愛護」「環境保全」といった風潮から「代替肉」の需要が急上昇している。ただし「代替肉」は一般に大豆など植物由来の肉のことを指す。他方「培養肉」は本物の動物の細胞からできている「純肉」とも言われるものだ。
今回認可を受けたのは米出身のスタートアップ企業で現在シンガポールを拠点とするイート・ジャスト社(Eat Just)である。同社は緑豆から卵の代替品もヴィーガン向けに製造している。
(図表:人工鶏肉はナゲット状で販売)
(出典:Reuters)
世界の人口は2050年には90億人に到達すると予想され「食料をどのように供給するのか」も課題となっている。今回シンガポールが認可に踏み切ったのは同国が食品の90%を輸入に頼っていることも背景にある。
しかし開発はまだ初期段階で生産コストは高い。同社は2021年末までには収益性を確保し商業化を急いでいる。
現在世界中で「研究室で培養された(lab-grown)」魚や牛肉、鶏肉が研究されている。未だ実証されていないマーケットに参入すべくしのぎを削っている。
世界の「培養肉」マーケットを見ると米国は製造研究の水準が非常に高い。また消費マーケットととしても有望だ。その理由は世界有数の人口を誇る米国民が消費者として「培養肉」に対する拒否感が希薄だからである。
他方で欧州の「培養肉」製造で最先端を走っているのがオランダ勢である。上述のマーク・ポスト教授が CSO(Chief Scientific Officer)を務めるモサミート社(MosaMeat)もオランダで積極的な「培養肉」ビジネスを展開しようとしている。同社の見立てでは2021年にまず高級レストランから提供できるのではないかと見ている。
我が国では日清食品ホールディングス株式会社(2897)が「培養肉」の研究開発を進めている。
ロンドンを本拠とする国際金融グループのバークレイズ(Barklays)によれば「代替肉」マーケットは2029年までに1400万ドル規模になる試算だ(参考)。
それでも「培養ハンバーグ」から「培養ステーキ」にするにはまだまだ飛躍的な技術の発展が必要だという。それがどこから生まれるのか注視して参りたい。
グローバル・インテリジェンス・ユニット Senior Analyst
二宮 美樹 記す
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