スペース・レース2.0

2020/09/18

去る7月20日、アラブ首長国連邦(UAE)勢の火星探査機「HOPE(ホープ)」が我が国の鹿児島県・種子島宇宙センターより打ち上げられ話題となった。UAEからの受注は2018年の人工衛星打ち上げに続き2度目である。探査機を打ち上げるのに使われたのがH2ロケットである。

日本のH2ロケットは世界トップレベルの打ち上げ成功率を誇る。今回のUAEのホープでH2Aの打ち上げは36回連続、成功率は約97.6%となった。さらにH2Bロケットの打ち上げ成功率は100%である。これだけの数値は日本の打ち上げ能力が世界の中でも極めて信頼性が高いことを示す。これは打ち上げ企業にとっての競争力となる。

H2ロケットは我が国が初めて達成した純国産ロケットだ。10年の開発をかけ、紆余曲折を経て1994年に遂に自国での開発に成功した。

(図表: H2Aロケット)

(出典:JAXA)

H2ロケットは三菱重工業株式会社(TYO:7011)を主契約者として開発され製造されているが、その下には多くの協力企業がある。それも川崎重工業株式会社(TYO:7012)、株式会社IHI(TYO:7013)、住友精密工業株式会社(TYO:6355)など大手企業ばかりでなく、多くの中小企業もそれぞれの分野で専門的な技術を磨き研究して極めて要求品質の高い部品・半製品・ユニット製品などを造り、それを主契約者に納め、そこで組み立てられている。種子島にあるロケット発射場での組み立てには、大手企業の専門家も立ち合い、調整などオンデマンドで要求される作業に関わる。各企業の総合力である。

そして今このH2ロケットの次世代としてH3ロケットが開発中だ。先代よりも①打ち上げコストを半減させ、②組み立て工程や射場整備期間を半分以下に短縮しつつも、高い打ち上げ成功率とオンタイム(予定通りの)打ち上げ率を維持し、③多種多様な民間の技術も利用したロケットを目指している。

(図表:Moon Race 1969年)

(出典:NASA)

近年の「宇宙開発」は冷戦時代の“Space Race”(「宇宙競争」)から“Space Race 2.0”(「宇宙競争2.0」)に入っているという。レースの競争相手は大統領や首相が率いる強大な国家とも限らず、テクノロジー系のベンチャー企業や億万長者の起業家が率いる民間企業である。これらのプレイヤーは新たな次元で「宇宙開発」を牽引し始めている。イーロン・マスクのSpaceX社は2024年に火星に人を送り込むことを宣言している。Amazon社のジェフ・ベゾス率いるBlue Origin社はロケットの再利用を初めて実現した。ベンチャー企業だけではない。航空宇宙・防衛・安全保障のグローバル・プレイヤーであるロッキード・マーティン社もNASAとの連携で火星を周回するスペース・ステーションと「再利用」可能な水力で動く着陸船(reusable, water-powered lander)を開発するという。

民間の参入はこれからも増えることは間違いない。気象衛星や通信、人工衛星など私たちの生活にもはや欠かせないのが「宇宙開発」である。したがって、軍事的な意味合いに限らず自前でできるということが国家の自立性にもつながるのである。たとえどれだけ宇宙事業が民間の間で広がったとしても国家戦略としての重要性はこれからも変わらず、民・官双方でこれからも宇宙事業は広がるだろう。

グローバル・インテリジェンス・ユニット リサーチャー

二宮 美樹 記す

株式会社原田武夫国際戦略情報研究所
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