アジアの中で日本が目指すべき方向
・アジアの中で、日本は何が課題なのか。中国と韓国は安倍政権にネガティブである。日本の右傾化を危惧している。ドイツと何が違うのか、ドイツはナチを完全否定した。フランスとドイツは歴史認識について同じストーリーを持っている。しかし、アジアではそうでない、とリー首相はいう。
・シンガポールも日本との戦争で厳しい目にあった。シンガポールの第一世代は日本がシンガポールを侵略し、陥落した2月15日を忘れない。第二世代は親から聴いている、第三世代は新しい世代で、これまでの日本とシンガポールの歴史を乗り越えてきている。しかし、中国と韓国は、このプロセスを乗り越えていない。よって、新しい関係が作れないのである。ここに日本のやるべきことがある、とリー首相は率直に言及する。
・フィリピンのアルバート・デレロサリオ外相は、アジアの成長を守っていく必要があり、そのためにアセアンを作り、育ててきた。しかし、自国だけのメリットを要求してもしかたがない、と指摘する。南シナ海について、フィリピンとしてはどう対応するのか。
・紛争ではなく、協力していくには、普遍的な価値をベースに物事を進めていく必要がある。民主主義、自由、法による統治などである。フィリピンは戦争を放棄している。フィリピンの国益をどのように守るか。フィリピンは、中国の主張に対して、国際法に訴えた。“武力か法か”では、法をとった。
・なぜ、もっと2カ国で対話をしないのか、という声もある。しかし、今まで対話は成功しなかった。法に訴えなければ、感情的になって軍事衝突になりかねない。力尽くではなく、法のもとでの権利を主張する。これは中国にもメリットがある。国際法の中での枠組みがはっきりすれば、折り合えるところが出てくるはずである、というのがデレロサリオ外相の主張である。中国からは提訴を取り下げろという圧力ある。しかし、仲裁が平和的解決の方法である。中国には責任ある大国になってほしい、と強調していた。
・日本の尖閣問題も容易ではない。21世紀に過去の大戦の戦争体験者はいなくなる。ナショナリズムの高まりには節度を持って対処し、95年の村山談話を軸に、過去は過去として決着し、将来を見て互恵を計るべし、というのがリー首相の見立てである。
・日本は財政赤字と高齢化という2つの難問を抱えている。アベノミクスで、政府がTPPに参加したというのは、構造改革をやるという証ではないかと、世銀のスリ専務理事は見ている。電力改革もよい例で、女性の労働力の活用も望ましい。日本政府が今年中に、中期的な財政赤字の削減の方向を打ち出すなら、なお良い方向に向かうことができる。
・もう1つの本質的改革は、出生率の向上である。スリ専務理事は母として3人の子どもを持つが、キャリアと母の双方の顔を持つことができる道を用意すべきであるという。政府が施設を提供すれば女性のストレスは減る。世界には例がある。日本がそのシステムを作れるかどうか、道は十分あると指摘する。
・日本は1990年のバブル崩壊後、20年間内向きで、経済は低迷してきた、とリー首相は語る。安倍首相は改革をするといい、TPPへの参加を表明した。TPPは改革の柱だ。なぜなら、国内の改革はやらざるを得ないからである。
・アジアの首脳の見方は的を射ている。ただ、この会議の場に、中国、韓国の政治家が来ていなかった。日本の姿勢が問われるところである。筋は通すにしても、やりようがあろう。今のところ、互いの不信感を克服するだけの人物はまだ見当たらない。その中で、エモーショナルな行動がマーケットへのネガティブイベントになることだけははっきりしている。
・アジアの発展に役立ち、自らの成長機会にも結びつくビジネスチャンスが、日本の金融機関に広がっている。黒田総裁は、3つの機会を挙げている。1つは、コンシューマアジアに向けて、日本の金融機関のビジネスモデルを進化させること。具体的には、現地通貨建ての金融ビジネスを拡大することである。2つは、社会基盤を作るためのインフラ投資に、ファイナンスをつけることである。10年で8兆ドルともいわれる投資が必要になっている。3つは、日本の貯蓄をアジアの域内で活用することである。アジアの内需化をぜひとも推進してほしいと思う。
・アセアンを見ると、2015年のアセアン共同体に向けて、貿易と物品を中心に80%の交渉は終わっている。サービスはもう少し複雑で、投資のルールもきちんと作る必要がある。民間航空のオープンスカイができると自由化の完全性は一段と進もう。新しいアセアンで活躍する企業に大いに注目したい。