人的資本の活かし方
・ヒト、モノ、カネが、経営の重要な基本要素である。その中で、ヒトの能力はどのように評価していくのか。お金で能力が測れるのか。測れないものはコントロール(管理)できない、というのがファイナンスの原則でもあるが、いかに計測していくのか。
・人件費は費用である。P/L(損益計算書)では、その期の費用として計上される。確かに人件費は外部流出するものであるが、それは社員の収入となる。
・社員は企業の外部として認識されのか。そうではない。企業の中にいて、その企業の付加価値の創出に貢献してくれる。よって、付加価値を測る時には、営業利益+償却(減価償却、のれん償却)+人件費として、中に含める。
・C/F(キャッシュフロー計算書)でも、会計上、外に出ていってしまう。よって、キャッシュ・フロー経営という時、償却はEBITDA(償却前営業利益)として重視されるが、人件費は費用として扱われてしまう。しかし、そうでないやり方もありうる。
・例えば、R&D(研究開発)費は、まさに将来の製品・サービスの開発に向けて投じられる先行投資である。よって、何らかの有形固定資産、無形固定資産に結びつけられれば、資産計上ができる。そうなれば、その後償却が実行されることになる。R&D費のかなりの部分は人件費であるから、人件費もうまくすれば資産計上されそうである。
・人件費をタレント人材のコストとみなしたらどうだろうか。特別な才能をもつプロで、人材の取引価格が成立する場合には資産計上も可能であろう。しかし、通常は値段がはっきりしない。
・では、人的資産への投資として、設備投資と同じように、人材投資を資産計上することはどうか。今の会計ルールには合致しないが、バランスシートに人的資産をおいてみよう。
・ある会社(A社)をイメージしてみる。売上高100億円、営業利益20億円、総資産200億円、純資産180億円、無借金、現金80億円、減価償却10億円、社員は400人で人件費は総額20億円であるとする。優良企業であるが、この会社の人的資本、人材価値はどのように評価できるであろうか。
・企業の価値が将来C/Fの現在価値であるなら、その計算において、人件費も含めているのであるから、将来人件費の現在価値も想定することができよう。
・例えば、10年分の人件費をイメージするのであれば、A社のケースでは、人的資産は200億円となる。これを毎年20億円ずつ償却して費用化していくと解釈できる。よって、人材償却費20億円となろう。
・また、人材に200億円の先行投資をしている。その分の人的負債(社員持分)がB/Sに立ってくる。そう考えると、総資産が200億円から400億円に増え、自己資本比率は90%から45%へ低下する。現金保有80億円も人的負債200億円からみれば、過剰ともいえなくなる。
・C/F計算書にも、人的資産の償却が人材費償却費として明示される。付加価値の認識として分かり易くなる。今まで、人件費項目の内容は総体として有報からは分かりにくかったが、これが明確になる。
・人的投資に対するリターンという考え方もはっきりしてくる。多くの企業は、人材が足らない、人材投資が必要であるという。それなら、その人的投資計画を立てる必要がある。設備投資やR&D投資と同じように、具体的に計画し、その開示も求められる。
・社員にとっては、働き易さが増してこよう。ESGのSの項目の開示が充実して、それが企業価値にいかにむすびつくかという点がイメージしやすくなる。
・投資家が真に知りたいのは、人件費ではない。10年分の人件費や従業員数×平均賃金だけでもない。1人ひとりの能力をいかに引き出し、高めていくかというスキルの活用と能力の向上に、その企業がどのように取り組んでいるかという仕組みを知りたいのである。
・人材のDEI(多様性、公平性、包括性)は大事であるが、それが企業価値にどのように結び付くのか。このつながりについて、その会社の独自性を知りたい。働き方は多様であり、生活との両立で工夫が必要な場面も増えている。
・障がい者の雇用も、制度として重要である。ルールを守ればよいという姿勢ではなく、会社全体にとってのウェルビーイング(幸福)をどのように高めていくか。この人的資本経営が伝わってくれば、投資家にとって本物と実感できよう。
・人的資本の投資に役立つKPIを工夫して開示してほしい。B/Sに載せられる人的資産の試みがぜひほしい。その上で、人的資本の生産性についてさらに議論を深めていきたい。ESGのSに関して、人材投資の開示に優れている企業に注目したい。
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