人数に依存しない経営
・人数に依存しない経営、そんなのがあり得るのか。人口減少社会にあって、今こそ人材、人的資本が大事であると叫ばれている。その中で、人数に依存しないとはどういう意味か。
・ヒトこそが知を生み出し、価値を創出する。それは人類始まって以来そうである。世は人手不足である。人数が足らない。いかに人数を確保するかという点で、血眼になっている。外国人労働者でもよいという気運である。
・一方、人手の数ではなく、1人当たりの価値を高めることこそ成長の源泉であるという見方も有力である。価値は何らかの価額で測るから、1人当たりGDP、1人当たり付加価値額などが分かり易い。
・知財こそ本質であるというなら、ヒトが生み出した知的資本にフォーカスしてもよい。しかし、1人では何もできない。人が集まって組織を作り、その組織が新しい価値を生み出す。その方がより豊かになれるであろう。これまでの歴史はそのように発展してきた。
・日本をみると、かつては4%を超えていた潜在成長力が今や1%を切っている。人口は、1.2憶人から8000万人に向かって減少が始まっている。少子高齢化による人口減少は、需要も減るが、それを支える供給がもっと減るかもしれない。そうすると、デフレではなくインフレが恒常化するという見方も有力である。
・長寿化が進むので、何としても健康寿命を延ばして、1人1人は亡くなるまで働く必要があろう。健康で動ければ、長く働くことができ、身のまわりのことや地域社会でのボランタリー活動へも貢献できよう。
・では、誰が稼いでくれるのか。人口が若く、増える時代はみんなで稼いだ。これからは稼ぎ手が減ってくる。このままでは国は貧乏になって、老後の不安はますます高まろう。
・ここ30年の企業経営をみると、「コストカット型」であった。売上高が伸びない中で、一生懸命コストカットに努力した。デフレ下になって賃金・物価は上がらず、縮小均衡を余儀なくされたというのが実感であろう。
・日本は何を怠ったのか。この30年、大手企業は海外に進出した。輸出ではなく、現地生産、現地企業のM&Aに力を入れた。輸出の時は、日本で設備投資を行ったが、海外進出で国内投資が疎かになった。
・需要が伸びる時には、設備投資をしやすい。人の採用も増やすことができる。しかし、需要拡大への期待がしぼむ中で、投資は十分にできない。人材の育成も怠り、パート・アルバイトで凌げばよいという傾向を強めた。
・人件費を抑制したことはコスト面ではプラスであるが、働く人の所得という観点では所得は上がらず、従来よりもつつましい生活が強いられるようになった。
・気が付いたら、日本は世界の先進国に比べて、相対的に貧しくなっていた。歴史と伝統を守りながら、安全で慎ましく暮らしていたら、世界の富裕層からは、日本は何でも安く、大いに楽しめる、とみられるようになった。コロナ明けのインバウンドは凄まじい。
・インバウンド需要はありがたい。しかし、よくみると、日本の観光資源、施設を不当に安売りしているともいえる。安くていいものを売って何が悪いと、かつての日本製小型車ブームの時に主張し、米国からそれが悪いとしっぺ返しをくった。
・今回はその逆の現象がおきている。インバウンド需要に対応するにも、至る所で人手不足が生じている。そして、働き手として外国人が入ってきている。
・もっと高付加価値化を進める必要がある。個人としても、組織としても、1人当たりの付加価値を高めるように行動していく。具体的には、知を生み出せる人を大切にして、この人たちに大いに働いてもらう。
・これまでの知とデータを駆使して、AIに働いてもらう。さまざまな領域でAIはヒトよりも賢くスピーディに働くので、ヒトをアシストすることで生産性を大幅に高めていくことができる。
・人手の領域でも、自動化、ロボット化が一段と進もう。工場ロボットはもちろんサービスロボットがあらゆるところに入り込んでこよう。これは、人の仕事を奪うのではない。人手不足をカバーして、ヒトを楽にしてくれるのであろう。
・AIは一大産業に発展しよう。半導体もデータセンターも電力も巨大な量を必要とする。そのための大型設備投資が必要である。これを国内で投資していく。その投資はすでに始まっている。次の10年で100兆円単位の投資が期待できよう。
・これを各企業はどのように推進していくか。グローバルには地政学的リスクが高まっている。それも踏まえて、果敢に次なる投資に挑戦して、高付加価値化を進める必要がある。
・コーポレートガバナンスコード(CGC)が出来て10年、日本取締役協会のシンポジウムで、3人の識者が印象深いコメントをしていた。
・東証の青常務は、1)根源的な付加価値を創出せよ、2)ステークホールダーや社外取締役はもっと経営者をやる気にさせよ、と鼓舞した。
・経産省の中西産業組織課長は、1)攻めのガバナンスは「稼ぐ力」の強化である。2)日本は設備投資、無形資産投資が伸びてこなかったが、ここがこれからの成長の基軸であると語った。
・富山会長(日本取締役協会)は、1)機関投資家のレベルもまだまだで、ステークホールダー全員のレベルアップが不可欠であり、1人ひとり№1を目指し、2)投資の源泉を突き詰めて、将来C/Fを求めて大いに生産性を高めるべし、と叱咤激励した。変革とは、社内調整ではなく、厳しい経営の実践であると強調する。
・人数に頼らない、ヒトを大事にした生産性向上に、成長の道はある。これを実践する企業の次の30年に期待したい。
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