日米貿易交渉で注目される自動車の行方

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◆トランプ関税が直撃

5月13日、日産自動車は新たな経営再建計画を発表しました。グローバルでの人員2万人の削減に加え、車両生産工場を17から10へ減らします。また固定費と変動費で計5,000億円(2024年度実績比)のコストカットにより、2026年度までに自動車事業の営業利益およびフリーキャッシュフロー※の黒字化を目指すとしています。日産自動車は、グローバルでの商品競争力低下に苦しむなか、ホンダとの経営統合も破談となったうえ、4月3日(部品は5月3日)に適用されたトランプ関税(25%の追加関税)に追い打ちをかけられた格好です。ほかにも、トヨタ自動車をはじめとした日本の大手自動車メーカーは5月中旬までに決算発表を行い、2025年度については各社とも厳しい見通しを示しました。

自動車産業は長く日本経済を牽引してきました。過去10年で見ても、全製造業の製品出荷額における自動車製造業の割合は2割弱となっており、非常に重要な地位を占めていることがわかります。今回、米国との貿易交渉において、日本からの自動車輸出が大きな争点となっています。自動車・自動車部品は、日本から米国への輸出のうち約3割を占めていることから、これまでにも何度となく注目されてきました。

※設備投資などの支出を差引いたキャッシュフロー、自由に使える資金

◆国内販売の縮小で輸出の重要性高まる

日本における自動車販売は1990年をピークに減少傾向にあります。1990年代は年間600万~700万台程度の国内販売がありましたが、2020年代に入ってからは400万~500万台にまで減っています。一方、自動車の保有台数は過去30年間、増加していますので、単純に使用年数が長期化していることになります。安全機能や燃費性能など自動車の品質が飛躍的に高まったことなどから、早期に買い替える必要がなくなったと考えられます。

こうした中、自動車の生産台数を見てみると、2020年代は概ね800万台での推移となっており、販売台数とは300~400万台の乖離があります。国内での販売が減少するなかで、生産を維持するには輸出を増やす必要があります。トヨタ自動車は、2024年度に国内で325万台を製造していますが、国内での販売は150万台に過ぎません。同社は従来から300万台の国内生産体制を守るとしており、今後も輸出を増やしていくとみられます。自動車関連産業の就業人口は558万人と日本の全就業人口の8.3%(2024年 日本自動車工業会資料)にのぼることからも、自動車産業は日本経済を支える重要な基幹産業であり、政府も雇用の観点から自動車生産を維持したい意向でしょう。

日本の自動車産業がここまで発展し、海外でも評価されてきたのは、ひとえに品質や生産コストにおける競争優位性が高かったためと考えられます。一方、海外ではEV(電気自動車)など新興企業の台頭もあり、グローバルでの競争環境は大きな転換点を迎えています。

日産経営再建計画の背景には、国内の自動車産業における複雑な事情も見えてきそうです。

米国政府との貿易交渉は予断を許しませんが、自動車産業が引き続き日本の基幹産業としての地位を保てるかは、日本のメーカーが世界の自動車市場で優位性を保つことが重要になります。

(チーフストラテジスト 上野 裕之)

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