潮目が変わる世界の自動車販売
【アナリストコラム 高田 悟】
世界の自動車販売の潮目が変わってきた。米国で新車販売が頗る好調だ。直前6月の新車販売台数は前年同月比9%増となり、25カ月連続で前年同月を上回った。6月の台数を季節調整し年換算すると足下の市場規模は年1,600万台弱となる。5月までの1,500万台前後の水準から更に上向き、リーマンショック前の水準に一段と近づいた。乗用車も堅調だが、好調の牽引役はSUVやピックアップトラックなど米国でライトトラックという分類に属する比較的大型の車種だ。ライトトラックは仕事、レジャー、輸送と多目的に使える車種が中心だが燃費は悪い。しかし、6月を含め過去3カ月連続でライトトラックが乗用車販売台数を上回った。このため大型に強い旧ビッグ3の元気が良い。
米国好調の一方で世界の中心となりつつあった新興国のいくつかで自動車販売に翳りが見られる。景気が低迷し財政面から軽油への補助金減額に動いたインドで新車販売はこのところ毎月前年割れが続く。ロシアでは新車販売台数は6月に前年同月比12%減と急減し、上半期(1~6月)累計で前年同期比6%減の133万台と低迷した。ブラジルでは6月の新車登録台数が反政府デモの影響もあり同10%減となり上半期累計は同5%増の178万台にとどまった。ロシア、ブラジルの悪化には長引く欧州景気の低迷が影響する。新興国の中では中国は様相が異なる。急拡大した市場は2011年、2012年と過去2カ年は前年比5%未満の拡大にとどまり成長は足踏みした。しかし、この上半期の自動車販売は前年同期比12%増と上向き、初の新車販売年2,000万台乗せと5年連続世界一が見えてきた。かつての中型セダンと言うより、MPVやSUVなどの多目的車や高級車が好調なことが注目される。
米国、中国の世界2大市場の堅調、両市場でともに比較的大型の車種が好調という状況は今後暫く続くと見られる。その理由として米国では市場規模が年1,600万台弱に戻ったとはいえ、年1,700万台超の市場が年1,000万台近くまで急激に落ち込んだ中での回復局面にまだある。潜在的な買い替え需要は多い。今後、景気回復によりこうした需要が一段と顕在化すると想定されることが挙げられる。加えて、シェールガス革命による原油価格の先安感、住宅市場の堅調、金利の先高感などによる販売環境の好転が大型車の販売増を後押しすると考えるからだ。また、中国では内需中心の安定成長に向かうと見られる中、モータゼーションの流れは継続するが、一方でかつて成熟市場が辿ったように需要の高付加価値化、多様化の流れにより市場が一段と厚みを増すことが成長を促すと見るからだ。
リーマンショック後の先進国市場低迷の中で新興国での自動車普及、小型車、低燃費車が世界の自動車販売を支えた。欧州は低迷が続き、日本も市場縮小が続き新興国は調整を経ながらも中期的には成長余地が大きいとうい見通しに変化はない。ただし、足下では新興国依存への局面は一旦終了し、大型車中心の米国市場復活、中国市場の構造変化が世界の自動車販売を牽引するという流れに変わってきていると考える。国内完成車メーカーは市場ごとにアクセルを踏んだり、ブレーキ掛けたりと柔軟な対応が一段と求められよう。こうした中で米国市場に強い、SUV系車種に魅力のある車種を抱える、対米ドルでの為替感応度が高い先に業績拡大のチャンスが大きく拡がっていると考える。