円安は本当に景気に良いのか?

2018/08/10

(要旨)
・円安は輸出企業が儲かるから景気にプラス、ではない
・円安が景気にプラスなのは輸出数量が増える筈だから
・アベノミクスでは円安でも輸出数量が増えず
・輸入物価上昇は消費者に転嫁されて消費にマイナス
・理論上は円安が金融引き締めにより景気を冷やす可能性も
・円建て輸出金額を論じるのは危険
・円安と輸出数量増は因果関係に要注意

(本文)
・円安は輸出企業が儲かるから景気にプラス、ではない
円安になると、「輸出企業がドルが高く売れて儲かるので景気は良くなるはず」という人が出てくるが、これは正しくない。日本は輸出金額と輸入金額が概ね同額であるから、輸出企業がドルを高く売れて儲かったのと同じだけ輸入企業がドルを高く買わされて損をしているからだ。
輸出には円建て契約もあるから、その分も考えれば輸入企業の損の方が大きいかもしれない。
ちなみに、日本の投資家は外貨を大量に保有しているから、ドル高円安になれば彼らの資産は膨らむし、彼らの受け取る利子配当は円建てで増加するが、それが日本の景気に直接関係する事は稀である。投資家たちは、淡々と受け取った配当を再投資するのが普通だからである。

・円安が景気にプラスなのは輸出数量が増える筈だから
円安が景気にプラスなのは、輸出数量が増える筈だからである。円安になると日本企業がドル建て輸出価格を値下げして大量に輸出しようとするので、輸出数量が増える。すると国内の生産が増えて雇用が増えて賃金が増えて消費が増えて景気が回復する、筈である。
外国の商社がドルを持って日本に仕入れに来る動きも活発化するはずである。それも輸出であるから、同様の景気回復効果をもたらす筈である。
日本人が輸入品を買わずに国産品を買うようになると、国内生産が増えて景気が回復するはずである。
外国人旅行客が日本に旅行に来る動きも活発化し、宿泊や飲食などの消費が増える筈である。

・アベノミクスでは円安でも輸出数量が増えず
ところが、アベノミクスで1ドルが80円から100円台に大幅円安となって5年も経つのに、輸出数量はほとんど増えず、輸入数量は減らず、むしろ増えている。どちらも為替レートの変化というよりも、内外経済の成長に伴って貿易数量が増えた、といったレベルの変化なのである。
その理由については、様々な説があるが、とにかく最近では何らかの構造変化があって、為替レートが輸出入数量に影響しない、という事だと理解しておこう。つまり、円安になっても輸出数量増、輸入数量減が景気を回復させるという力は最近は期待しにくい、というわけだ。
訪日外国人は増えているが、これは為替の影響というよりも、訪日ビザの緩和等々の影響が大きそうだ。日本から帰った観光客が日本の魅力を母国で語り、母国からの観光客が増える、という効果もあるようだ。

・輸入物価上昇は消費者に転嫁されて消費にマイナス
輸出企業が持ち帰ったドルを高く売って利益が増えても、輸出企業の配当が増えるか内部留保が増えるかであって、いずれも景気を回復させる力とはなりにくい。
一方で、輸入企業が輸入代金のドルを高く買わされた事によって輸入原材料が値上がりすれば、その一部は消費財価格に転嫁されるため、消費を冷え込ませる要因となりかねない。
輸出企業の利益が増えるより、消費者の支出が増える方が、はるかに景気への影響は大きいのである。

・理論上は円安が金融引き締めにより景気を冷やす可能性も
理論上は、円安がインフレを招き、金融の引き締めが行われて景気が悪化する可能性もある。昨今の日本では考えられない事だが。
ちなみに、バブル期の日本経済では、逆の事が生じていた。景気が絶好調で、インフレになって金融が引き締められる筈のところ、プラザ合意後の円高で物価が安定していたため、金融の引き締めが行われず、景気が長持ちしたのである。もっとも、それがバブルになったというオチが付くのだが(笑)。

・円建て輸出金額を論じるのは危険
マスコミの報道で「輸出が増えた」というのは「円建ての輸出金額が増えた」という意味である場合も多いが、注意が必要である。
輸出入数量が変わらず、ドル建て輸出入価格が変わらず、ドル高円安になった場合、円建ての輸出金額は増えるが、これは当然の事であり、特に意味はない。輸入金額も同様に増えるからである。
たとえば、輸入数量が激減して、ドル建て輸入金額が激減し、円建て輸入金額が前年比ゼロであったとしよう。表面上は「輸出金額が増えたから貿易黒字が増えた」という事になろうが、実際に貿易黒字が増えた原因は輸入数量の激減なのである。円建て輸入金額が前年比ゼロであるため、そこに原因がある事に気づかない人も多いが、注意したい。

・円安と輸出数量増は因果関係に要注意
過去の統計を見ると、円安が進んだ時に輸出数量が増えている事が多い。しかし、これを「円安が輸出数量を増加させた」と理解するのは危険である。
米国の景気が拡大すると、日本の輸出数量が増加する。同時に、米国は金融緩和をやめるから、米国の金利が上がり、日米金利差が拡大し、ドル高円安になる。つまり、米国の景気拡大が親で、日本の輸出数量と為替レートが子であり、両者は兄弟であるが故に似た動きをしているだけなのである。
因果関係と相関関係、気をつけたいものである。

(8月6日発行レポートから転載)

久留米大学教授 TIW客員エコノミスト
塚崎公義『経済を見るポイント』   久留米大学教授 TIW客員エコノミスト
目先の指標データに振り回されずに、冷静に経済事象を見てゆきましょう。経済指標・各種統計を見るポイントから、将来の可能性を考えてゆきます。
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