長期金利が上がると債券価格が下がる理由
■長期金利は短期金利の予想の平均である
■短期金利が上がる予想だと長期金利が上がる
■昨日発行された長期債の魅力が乏しくなる
■発行体の信用力低下でも長期債利回りは上がる
■長期債の需給悪化でも長期債利回りは上がる
■今の日本は長期債需給がゆがんでいて例外的
(本文)
今回は、長期金利と債券価格に関する入門的解説である。
■長期金利は短期金利の予想の平均である
銀行の2年定期と1年定期の金利が、どちらも2%だとする。人々が「1年後には1年定期の金利は4%になっているだろう」と予想しているとする。そうなると、2年定期をする人は皆無であろう。
2年定期を預けても、100円が2年後に104円になって戻ってくるだけであるが、1年定期を預けておけば1年後に102円が戻ってきて、それを再び1年定期にすれば2年後には106円が手に入るからである。
そうなると、2年定期を集めたい銀行は、2年定期の金利を3%に引き上げる必要が出てくる。そうなれば、人々は2年定期も預けるであろう。100円が2年後に106円になるのであれば、わざわざ1年定期を2回預ける必要は無いからである。
銀行としても、1年定期を2回預かる場合と比べて損するわけではない。どうせ2年後には106円を預金者に渡すことになるのだから。
つまり、2年定期の金利は、1年定期の今の金利と1年後の予想を平均した数値となるのである。
10年国債の金利(正確には利回り、以下同様)についても同様である。1年国債の今の金利と今後10年間の予想される金利の平均が10年国債の金利と等しくなるのである。
結果として、投資家は「10年国債を買うのと毎年1年国債を買うのとどちらが得だかわからない」という事になる。この「どちらが得だかわからない」というのは、とても重要な事である。
どちらかが得だとわかれば、皆が得な方を選択するから、得でない方は取引が成立しなくなってしまい、その取引を望む人(2年定期を集めたい銀行、10年国債を売って資金を集めたい政府)が条件を変更せざるを得なくなるからである。
■短期金利が上がる予想だと長期金利が上がる
上記から明らかなように、人々が「将来は短期金利が上がる」と考えるようになると、長期金利は上昇する。「今までと同じ金利なら、長期国債は買わない」と考えるからである。
したがって、政府は人々の予想が変化しただけで、高い金利の国債を発行しなければいけなくなるのである。
もちろん、人々が短期金利の低下を予想するようになれば、低い金利の長期国債を発行する事ができるようになる事は当然である。
■昨日発行された長期債の魅力が乏しくなる
政府が発行する国債は、発行した時点で毎回の利払い額が決まっている。つまり、長期金利が2%の時に発行された国債を持っている人は、毎年2円ずつ金利が受け取れるのである。ちなみに本稿においては、国債の額面(満期に戻ってくる金額)は100円とする。
長期金利2%の時に発行された国債を持っている人が、長期金利が3%に上がってから手持ちの国債を売りたいと考えても、誰も100円では買ってくれない筈だ。100円出せば、毎年3円ずつ金利が受け取れる新しい国債を政府から買う事が出来るからだ。
ではどうするか。90円で売れば良いのである。90円で売れば、買った人は毎年2円の金利がもらえると共に、90円で買った国債が満期に100円で戻ってくるので、合計30円の利益になる。10年間3円ずつ金利を受け取るのと同じ事なので、買ってくれる人が見つかるだろう。
つまり、長期金利が上昇すると、国債の取引価格は下がるのである。値段を下げないと買ってくれる人がいないのだから、当然といえば当然であるが。
■発行体の信用力低下でも長期債の金利は上がる
世の中の人々が予想する短期金利が上がると長期金利が上がり、国債の値段が下がる、と記したが、それ以外にも国債の値段が下がる事がある。たとえば「日本政府は破産するかも知れないから、日本政府には金を貸したく無い」と人々が考える場合である。
そうなると政府が「高い金利を払うから貸してくれ(国債を買ってくれ)」と言い始めるため、国債の金利は上がる。
すでに発行された国債を持っている人は、早く現金化したいから「安くても良いから買ってくれ」と言って売りに出すため、国債が値下がりする。そうなると、買った人にとっては金利の高い国債を買ったのと同じ利益が得られるので、長期国債を安く買った人も「高い金利がもらえる」と考えて良かろう。つまり、長期金利が上昇するのである。
■長期債の需給悪化でも長期債利回りは上がる
投資家たちが「いつ資金が必要になるかも知れないから、長期国債は持ちたくない」と考えると、政府が発行した長期国債を買ってくれる人が減り、長期金利は上がることになる。
あるいは、人々が「長期国債は値下がりするだろうから、今のうちに長期国債を売っておこう」と考える場合には、長期国債の値段が下がるため、やはり長期金利は上がることになる。
時間がたてば、長期金利は短期金利の予想に近づくのであろうが、短期的には投機家たちの売りで国債価格が暴落して長期金利が急騰する、といった事も起き得るのである。
■今の日本は長期債需給がゆがんでいて例外的
今の日本では、反対に日銀が巨額の長期国債を買っているので、長期金利は人々が予想している短期金利の平均よりも低くなっているようだ。
「そんな事なら、長期国債など買わずに短期国債を買っておけば良いのに」と筆者なら考えるのだが、実際には「長期国債がもっと値上がりするかも知れないから、今のうちに買っておこう」と考える投資家も少なくないようで、日銀以外の買い注文も結構あるようだ。
日銀が買うのをやめると長期国債の価格が暴落して大損する人が出てくるかも知れないのだが、それはまだ先の事であるから、目先の利益を狙って買っているプロたちが多い、ということなのだろう。筆者は到底参戦する気にならないが。
本稿は以上である。なお、わかりやすさを優先したため、細部の厳密さは犠牲になっている部分もある。たとえば、利回りの計算は複利で行うべきところ、本稿では単利で計算している次第である。ご了承いただければ幸いである。
(10月13日発行レポートから転載)