令和時代は日本経済の黄金時代
(要旨)
・バブル崩壊後の長期低迷期、失業が労働市場の諸悪の根源だった
・失業は日本経済の労働生産性、財政赤字等にも悪影響
・少子高齢化で失業から労働力不足へ
・労働力不足で労働市場の諸悪が雲散霧消
・労働力不足で労働生産性が上昇へ
・少子高齢化で景気の波が縮小
・労働力不足で増税が容易になり、財政も改善へ
・外国人の単純労働者は受け入れるべきでない
(本文)
新しい時代が始まった。まずは、これを喜びたい。その上で、本稿は新しい時代の日本経済を大局的な見地から予測せんとするものである。
・バブル崩壊後の長期低迷期、失業が労働市場の諸悪の根源だった
バブル崩壊後の長期低迷期、日本経済は失業問題に苦しんだ。人々が勤勉に働いたため、多くの物(財およびサービス、以下同様)が作られた一方で、人々が倹約に励んだため、多くの物が売れ残り、それが企業の生産を減らし、雇用を減らしたのである。
人々が豊かになろうとして勤勉に働き、節約に努める事は良い事であるが、皆が良い事をすると皆が酷い目に遭うという「合成の誤謬」のせいで、失業が増え、それが多くの問題を引き起こしたのである。
失業が増えたので、企業は労働者を囲い込む必要性を感じなくなり、正社員を減らして非正規労働者を多く雇うようになった。正社員になれずに非正規労働者として生計を立てざるを得ない人々は、ワーキング・プアと呼ばれるようになり、懸命に働いても低所得であり、かつ仕事は不安定であった。
ワーキング・プアの男性は結婚率が低いので、これが少子化の一因となっていた可能性も否定できない。
労働組合は、賃上げより雇用の確保を優先せざるを得なかったから、正社員の賃金は上がらなかった。
ブラック企業が増えた。就職が決まらない学生は「ワーキング・プアになるよりマシ」と考えてブラック企業にでも喜んで就職するし、社員も「辞めたら失業者だ」と思うから辞めない。そこでブラック企業は従業員を酷使し放題となったのだ。
・失業は日本経済の労働生産性、財政赤字等にも悪影響
失業者が多いので、失業対策の公共事業が行われた。失業対策は、労働生産性が高いと困るので、労働生産性が高く無いものが多く、日本経済全体の効率性を引き下げる事になる。
失業者が大勢いると、企業は安くアルバイトが雇えるので、省力化投資のインセンティブを持ちにくい。飲食店は自動食器洗い機を買わなくてもアルバイトに皿を洗わせれば良いからだ。
安い賃金で労働力が雇えると、労働生産性の低い企業でも労働者を雇う事が出来るので、日本経済全体としての労働生産性が高まらない。
失業の存在は、財政赤字にもマイナスである。失業対策の公共投資に金がかかるという事もあるが、それだけではない。
増税しようとすると「増税をして景気が悪化すると失業者が増えてしまう」という反対論が強く、増税しにくくなるのである。
・少子高齢化で失業から労働力不足へ
アベノミクスで失業が減り、労働力不足となったが、低い経済成長率なのに労働力不足になったのは、少子高齢化により労働力不足の基礎ができていたからである。大きな流れとしての「少子高齢化による労働力不足」の上に小さなアベノミクスが上乗せされた、といったイメージであろうか。
少子高齢化で労働力不足となるのは、作る人と使う人の比率が変わるからだ。作る人、すなわち現役世代人口は急速に減っていくのに、使う人、すなわち総人口は少ししか減らないので、物(財およびサービス、以下同様)が不足し、労働力が不足するのだ。
加えて今ひとつ、理由がある。若者が自動車を買っても全自動ロボットが自動車を作るので労働力不足にはならないが、高齢者が介護を頼むと労働力不足になるのだ。同じ金額の個人消費でも、高齢者の消費の方が労働集約的だから労働力不足を招きやすいのである。
したがって、10年もすると、労働力不足が進み、「好景気なら超労働力不足、不景気でも少しは労働力不足」といった時代が来るかも知れない。
・労働力不足で労働市場の諸悪が雲散霧消
労働力不足になると、失業者が(ゼロにはならないが、実質的に)いなくなる。仕事探しを諦めていたが故に失業者の統計にも載っていなかった高齢者や子育て中の主婦でさえも、「ぜひ働いてください」と言われるようになるのだ。
働く意欲と能力のある人が仕事にありついて生き生きと働けるというのは、素晴らしいことだ。
労働力の需給が引き締まって来ると、非正規労働者の待遇が改善し、ワーキング・プアの生活がマシになってくるはずだ。すでにその兆候はあらわれている。
正社員の給料も、若手中心に上がってくるだろう。中高年サラリーマンの給料は上がらないだろうが、これも「同一労働同一賃金に近づく」と前向きに考えれば、悪い事ではなかろう。
ブラック企業も存続できなくなる。学生が就職してこないし、今の社員も辞めていくからである。ホワイト化して労働力を確保するか、社員が辞めて消滅するか、いずれかであろう。
・労働力不足で労働生産性が上昇へ
すでに、失業対策としての公共投資は行われなくなっている。企業は省力化投資に取り組み始めている。デフレマインド(どうせ悪い事が起きるにちがいないという諦めムード)が広がっているため、省力化投資についても今のところは限定的であるが、今後「労働力不足は簡単には解消されない」ことが知れていくにつれて本格化してくると期待される。
今後は、労働生産性が低くて高い賃金の払えない企業から労働生産性が高くて高い賃金の払える企業へと労働力が移動していき、それによって日本経済全体の効率性が高まることが期待される。
・少子高齢化で景気の波が縮小
少子高齢化は、景気の波を小さくし、将来は「不況が来ない経済」になるかも知れない。それは、高齢者の消費が安定しているからである。高齢者は所得が安定しているので、消費も安定している。そこで、消費者に占める高齢者の比率が高まると、消費が安定してくるのである。
現役世代の中で、高齢者向けの仕事をしている人が増えてくると、現役世代の所得も安定し、現役世代の消費も安定してくる。
極端な話、現役世代の全員が介護に従事するようになれば、景気の波は消滅するだろう。そこまで行かなくても、日本が輸出をやめて、国内向けの物だけを作る国になったとすれば、海外の景気に影響される事がなくなるのである。
実際には、少しは輸出産業も残るだろうが、海外の景気悪化で輸出企業がリストラを強いられたとしても、労働力不足であるから失業した人はすぐに次の仕事を見つける事が出来るだろう。そうなれば、「生産減→失業増→失業者の消費減→更なる生産減」といった悪循環が起きないので、景気の悪化が小幅にとどまるはずである。
・労働力不足で増税が容易になり、財政も改善へ
すでに失業対策の公共投資が不要になり、財政赤字の縮小に貢献しているが、今後は増税も容易になっていくであろう。
10年もすれば、「増税をしても失業が増えないので、気楽に増税できる」時代が来るかもしれない。さらには「労働力不足で賃金が上がり、インフレが心配だから、増税して景気を悪化させてインフレを抑え込もう」という事になるかもしれない。
そうなれば、財政赤字は容易に減らせるかもしれない。高齢化で財政が悪化すると言われているが、そうならない可能性も高いのである。
余談であるが、そうだとすれば、今の時点で緊縮財政を焦って税収という金の卵を産む鶏である景気を殺してしまうリスクはおかすべきで無かろう。
・外国人の単純労働者は受け入れるべきでない
以上のように、少子高齢化による労働力不足によって日本経済は素晴らしい時代を迎える。黄金時代という呼び方はバブル期を想起させかねないので、適切か否かは諸説あろうが、バブル崩壊後の長期低迷期の諸問題が一気に解決するのであるから、素晴らしい時代である事は疑いない。
そうした中で、政府は労働力不足対策として外国人の単純労働者を受け入れようとしている。そうなると、せっかくの労働力不足が解消してしまい、バブル崩壊後の長期低迷期に逆戻りしてしまう可能性もある。
労働力不足というのは経営者目線の言葉であって、労働者目線で言えば「仕事がたくさんあって素晴らしい」という事であるし、マクロ経済の観点からも日本経済が効率化していくので望ましい、という事であるから、それを止めてしまいかねない外国人の単純労働者の受け入れば、ぜひとも慎重にお願いしたいところである。
(5月7日発行レポートから転載)