仮想通貨ではなく暗号資産~雨宮日銀副総裁のマネー展望
市川レポート(No.579)仮想通貨ではなく暗号資産~雨宮日銀副総裁のマネー展望
- 国際会議での名称は仮想通貨でなく暗号資産、これが支払決済に広く使われる可能性は低い。
- キャッシュレス化の進展でデータとマネーは接近へ、ただし中央銀行の基本的な機能は損なわれず。
- 講演はマネーの進化が金融経済に及ぼす影響について長期展望が示された点で有意義であった。
国際会議での名称は仮想通貨でなく暗号資産、これが支払決済に広く使われる可能性は低い
日銀の雨宮正佳副総裁は10月20日、日本金融学会の秋季大会において「マネーの将来」というテーマで講演を行いました。その内容は、今後の金融経済や中央銀行のあり方を考える上で非常に有益であったため、今回のレポートではその概要をお伝えします。講演では、マネーの成り立ちと機能の振り返り、情報技術革新と支払決裁手段のデジタル化の進展、マネーの将来像の展望、という流れで話が進みました(図表1)。
雨宮副総裁は、マネーの将来について、自身の見解を5つのポイントにまとめてお話しをされました。1つめは「マネーに求められる信用と暗号資産について」です。講演では、マネーが信用を基盤とする以上、発行者を持たず、円やドルなどのソブリン通貨単位を用いない暗号資産が、支払決済に広く使われる可能性は低いとの見解が示されました。なお、国際会議では、仮想通貨ではなく暗号資産という名称が一般的とのことです。
キャッシュレス化の進展でデータとマネーは接近へ、ただし中央銀行の基本的な機能は損なわれず
2つめは「キャッシュレス化の一段の進展」です。ソブリン通貨単位を用い、デジタル情報技術を活用した支払決済のキャッシュレス化は、今後も進むとの考えが示されました。3つめは「マネーとデータの接近」です。例えば、ポイント割引は、企業による顧客データの購入であり、顧客による財購入時のポイント利用は、データからマネーへの転換と考えられます。雨宮副総裁は、このようなデータの蓄積と活用が進むにつれ、マネーとデータはますます接近すると述べました。
4つめは「二層構造の意義」です。仮に中央銀行がデジタル通貨を発行し、預金まで代替すれば、銀行の信用仲介は縮小します。そのため、中央銀行がベースマネーを供給し、民間銀行が信用創造を行うという二層構造は、今後も維持されるとの見方が示されました。5つめは「中央銀行の役割と機能」です。雨宮副総裁は、キャッシュレス化が進んでも、決済が預金の移転を伴う限り、中央銀行の金融政策や最後の貸し手としての機能が損なわれることはないとの立場を示しました。
講演はマネーの進化が金融経済に及ぼす影響について長期展望が示された点で有意義であった
今回の雨宮副総裁の講演は、マネーの進化が金融や社会経済に及ぼす影響について、副総裁自身の長期展望が示されたという点で、大変有意義だったと思います。金融政策について直接的な言及はありませんでしたが、物価に少し触れたところもありました。具体的には、「ポイント割引が物価をいくらか押し下げる力として働いている可能性がある」、「一般物価は貨幣的現象である」とのコメントで、後者は原稿に記載されていません。
なお、中央銀行による信用の裏付けがない暗号資産は、やはり投機の対象となりやすく(図表2)、支払決済に広く使われる可能性は低いという指摘はその通りだと思います。また、キャッシュレス化は今後、日本でも進むと考えられ、携帯端末決済サービス「スウィッシュ(Swish)」の導入でキャッシュレス化が先行するスウェーデンの事例は参考になるとみられます。今回の雨宮副総裁の講演内容は、日銀のホームページで公開されています。
(2018年10月22)
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