適温相場~終わりの始まりか?
市川レポート(No.412)適温相場~終わりの始まりか?
- ECBはテーパリングを今年9月に通知し、来年1月に開始へ、利上げは早くても来年12月を予想。
- 米金融政策について、年内は利上げよりも、バランスシート縮小の通知が先になるとの見方に変更。
- 適温相場終了の思惑で市場動揺の恐れも、ただ各国が慎重に緩和を解除すれば混乱は回避へ。
ECBはテーパリングを今年9月に通知し、来年1月に開始へ、利上げは早くても来年12月を予想
6月27日の金融市場では、ドラギ欧州中央銀行(ECB)総裁の発言を受け、ユーロ圏の金融緩和縮小を強く意識した動きがみられました。ドラギ総裁の発言については、①景気回復につれて政策手段のパラメーターを調整できるようになる、②調整は慎重に行うべきだが、それは引き締めではなく、政策スタンスを一定に保つためのもの、③緩和的な金融政策は依然必要、これらが重要なポイントと考えます。
つまり、資産買い入れを段階的に縮小(テーパリング)しても、金融緩和は続けるというメッセージであり、市場の反応はやや行き過ぎのようにも思われます。弊社ではECBが金融政策の正常化を慎重に進めるとみており、テーパリングは2017年9月に通知、2018年1月に開始、同年9月に終了となる可能性が高いと考えます。利上げ時期は、政策金利の下限となる中銀預金金利が早くても2018年12月、主要政策金利であるリファイナンス金利は2019年以降と予想します。
米金融政策について、年内は利上げよりも、バランスシート縮小の通知が先になるとの見方に変更
一方、米国に目を向けると、足元では予想を下回る経済指標の発表が目立ち、物価も伸び悩むなか、利上げの織り込みが進んでいません。また米上院共和党執行部が、医療保険制度改革法案(オバマケア)の代替法案の採決を7月5日以降に延期したため、18年度予算審議の開始が遅れる見通しとなりました。経済的、政治的な不透明感はしばらく残る可能性があるため、9月の米連邦公開市場委員会(FOMC)では政策据え置きを予想します。
ただ今回、そこから先の金融政策について、弊社は見通しを変更しました(図表1)。イエレンFRB議長は6月27日の講演で、市場は6月のFOMCで公表したバランスシート縮小に関する詳細な情報を十分理解していると述べた一方、株式などの資産価格は幾分高いとの見解を示しました。そのため、FRBが資産価格の微調整が必要と考えているならば、市場で織り込みが進んでいない利上げよりも、理解の進んだバランスシート縮小の方が適切となります。
適温相場終了の思惑で市場動揺の恐れも、ただ各国が慎重に緩和を解除すれば混乱は回避へ
なお、イングランド銀行(BOE)のカーニー総裁も6月28日、近く利上げを開始するかもしれないとの考えを示し、カナダ銀行(BOC)のポロズ総裁も6月13日、利下げは大方の役割を果たしたと述べています。今年後半から来年にかけて、主要国の中央銀行がそろって金融緩和の解除を開始した場合、世界的に緩やかな景気回復と金融緩和の併存によって形成される「適温相場」の終わりが始まる可能性があります。
株式などリスク資産の価格を支える「適温相場」の持続性に不透明感が強まれば、円高の進行や日本株の下落という事態につながる恐れもあります。ただ図表2の通り、日本と欧米の中央銀行とでは、正常化の進行ステージが異なり、これ自体が円安材料となり得ます。そのため欧米中央銀行が、極めて慎重に金融政策の正常化を進めていくことに成功すれば、市場の深刻な混乱は回避されると思われます。
(2017年6月29日)
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