FRBがバランスシート縮小と利上げを区別できる理由
市川レポート(No.409)FRBがバランスシート縮小と利上げを区別できる理由
- FRBはFF金利に上限と下限を設定し、それらを引き上げることで、従来と異なる利上げを実行中。
- 実際はFRB自らの利払い金利の引き上げであり、これでバランスシート維持のまま利上げが可能に。
- ただバランスシートの縮小が始まれば、最終的な規模次第では、従来の利上げ手法に回帰しよう。
FRBはFF金利に上限と下限を設定し、それらを引き上げることで、従来と異なる利上げを実行中
米連邦準備制度理事会(FRB)は現在、特殊な形で利上げを行っています。過去の利上げ局面では、FRBは日々の金融調節で市場から資金を吸収し、政策金利であるフェデラルファンド(FF)金利を誘導目標に引き上げていました。しかしながら、民間金融機関はすでに巨額の余剰資金を準備預金としてFRBに預け入れているため、資金需要は強くありません。
このような状況では、過去と同じ金融調整で利上げを行うことは困難です。そこでFRBはFF金利に上限と下限を設定し、それらを引き上げることで今回の利上げ局面に対応しています。上限金利は超過準備預金金利(Interest On Excess Reserves、IOER)、下限金利は翌日物リバースレポ金利(Reverse RepoRate、RRP)といい、この間にFF金利が収まるようFRBが資金操作を行っています(図表1)。
実際はFRB自らの利払い金利の引き上げであり、これでバランスシート維持のまま利上げが可能に
超過準備預金金利は、民間金融機関がFRBに預け入れている準備預金のうち、法定準備額を超えた分についてFRBが支払う金利です。ただし、政府支援機関(GSE)など預金を取り扱っていない金融機関は超過準備預金金利を受け取ることができませんので、これより低い金利で資金を運用せざるをえません。そこで登場するのが、より広範な金融機関を対象とする翌日物リバースレポ制度です。
翌日物リバースレポ制度とは、FRBが金融機関から米国債を担保に資金を借り入れて利息を支払う制度です。その支払い金利がリバースレポ金利です。この制度では、超過準備預金金利を受け取れない金融機関も利用できるため、FF金利の下限として有効に作用します。つまり、FRBは民間金融機関に対する自らの利払い金利を引き上げることにより、バランスシートの規模を維持したまま、それと独立する形での利上げを可能としました。
ただバランスシートの縮小が始まれば、最終的な規模次第では、従来の利上げ手法に回帰しよう
市場では、早ければ年内にもバランスシート縮小の開始が通知され、その際、追加利上げは見送られ、後に再開されるという見方があります。このように、バランスシート縮小と利上げが区別できるのも、FRBが前述の特殊な利上げを行っているからです。なお、利上げに関し、リバースレポ取引が増加した場合、バランスシートの負債項目にある準備預金の金額が減り、リバースレポの金額が増えますが、総資産の残高は変わりません(図表2)。
超過準備預金とリバースレポに対するFRBの利払い原資は、バランスシートの資産項目にある財務省証券をはじめとする証券等からの金利収入です。そのため、現行の利上げ手法は、バランスシート規模の維持(財務省証券などの償還金の再投資)を前提としています。バランスシートの最終的な縮小規模は明らかにされていませんが、現行の利上げ手法が限界となれば、金融調整を通じた従来型のFF金利誘導に回帰すると思われます。
(2017年6月22日)
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