日銀がETF買い入れに動くタイミング

2016/08/04

市川レポート(No.284)日銀がETF買い入れに動くタイミング

  • 昨年前半頃は、TOPIXの前場終値が前日終値から0.2%程度下げると買い入れに動いていた。
  • その後も株価下落率に基づくETFの買い入れが続き、0.1%程度の下げでも買う時期があった。
  • 日銀のETF買い入れは相場環境に応じた柔軟な姿勢に変化、ただ買い入れ自体にマイナス面も。

昨年前半頃は、TOPIXの前場終値が前日終値から0.2%程度下げると買い入れに動いていた

日銀は2016年7月28日、29日に金融政策決定会合を開催し、上場投資信託(ETF)について、保有残高が年間約6兆円に相当するペースで増加するよう、買い入れることを決定しました。金額はこれまでの年間約3.3 兆円からほぼ倍増となりますが、日銀は8月2日に財務相と金融庁長官から増額の認可を得て、8月3日から新しい買い入れ方針を適用しています。

過去、日銀は東証株価指数(TOPIX)の前場終値が前日終値から1%超下がると、その日の後場にETFを買い入れるとみられていました。そこで2015年6月3日付レポート「日銀と日本株の関係」にて、2015年1月5日から6月1日までのデータを検証したところ、前日終値から1%超ではなく、0.2%程度の下げで買い入れに動いていることが確認されました。今回はその後の変化を追ってみます。

その後も株価下落率に基づくETFの買い入れが続き、0.1%程度の下げでも買う時期があった

まず検証期間を2015年6月1日から2016年8月3日までとし、TOPIXの前日終値から当日前場終値までの下落率を営業日毎に計算しました。そして月毎に、日銀がETFの買い入れを実施した日の最小下落率と、買い入れを見送った日の最大下落率を抽出し、それらをまとめました(図表1)。なお日銀は2016年4月以降、積極投資企業を支援するためのETFを、ほぼ毎営業日12億円ずつ買い入れていますので、今回これは対象外とします。

2015年6月から11月までのデータをみると、日銀が比較的小幅な下げでもETFを買い入れている様子が窺え、特に6月と7月は0.1%程度の下げでも買いに動いています。しかしながらこれとは対照的に、10月は2.3%の下落でようやく購入しています。これは10月の株価が総じて堅調に推移するなか、月内のETFの買い入れは、下げが比較的大きかった10月14日の1営業日のみだったためです。

日銀のETF買い入れは相場環境に応じた柔軟な姿勢に変化、ただ買い入れ自体にマイナス面も

その後、ETFの買い入れ基準は次第に法則性を失い、2015年12月、2016年2月、4月、7月には、買い入れを見送った時よりも小さい下落率で買い入れが行われました。以上のデータ検証から、日銀は株価の下落率が一定割合に達したらETFを買い入れるという以前の姿勢から、最近は株式相場の環境変化に応じて柔軟に買い入れ判断を行う姿勢に転じたと推測されます。

日銀によるETF買い入れは日本株の需給に好材料です。しかしながら、中央銀行が長期にわたって株式市場に直接関与し続けることは、健全な価格形成機能を損なう恐れもあり、好ましくありません。また当然ながら、ETFの買い入れだけで株価の上昇トレンドを形成することはできません(図表2)。日銀によるETFの買い入れについては、金融緩和の一手段というだけでなく、株価にとってのマイナス面や実際の効果についても十分理解しておくことが必要と思われます。

160804図表1160804図表2

 

 (2016年8月4日)

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